2022 Fiscal Year Annual Research Report
現代ブータン村落社会の信仰空間における自然観の位相をめぐって
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21J22964
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石内 良季 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ブータン / 地域研究 / 宗教実践 / 社会変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ブータン農村社会がどのような歴史と特徴を持ち、今そこで人々がどのようにして他者と関わりあって暮らしているのか、特に、地域の発展や維持に、人々がどのように宗教を位置付け、実践してきたのかを明らかにする。 本年度は、ブータン東部タシガン県バルツァムでの定着調査を開始した。なお、博論執筆に向けた調査計画は5つの段階に分けており、今年度は第三期までを終えた。まず、2022年4月から10月までの〈第一期〉では、現地語であるツァンラ語とチョチャンガチャ語の習得に専念した。その後、住み込みをする村落の全世帯を対象とした全世帯調査を行なった。具体的には基本情報に加え、親族、移住歴、生業、言語、教育、動産・不動産の所有などを調べた。これによって、調査地の社会・経済状況が鮮明になった。 〈第二期〉の11月には、第一期のフィードバックを首都ティンプーにて行ない、深めるべきテーマについての今後の調査計画を立てた。また、首都という場所で地方の日常を作る国家制度を観察、資料収集などを行なった。これによって、村落と都市を結ぶ人・モノの動きが明らかとなり、新たな研究の視野が拓けた。 〈第三期〉の12月から2023年3月にかけては、村落における宗教実践に関する聞き取り調査を、現地語を用いて本格的に始めた。これによって、村落の宗教実践の歴史と現在が明らかとなり、来年度の調査での焦点や方向性を決めた。 その他、昨年度同様に本年度も研究発表および研究内容のアウトリーチ活動に精を出した。まず、昨年度までの研究成果をまとめた論文(査読あり)が『アジア・アフリカ地域研究』に掲載される運びとなった。研究内容のアウトリーチ活動としては、日本ブータン友好協会が主催する「BHUTAN DAY 2022」への資料動画提供を行なうなど、アカデミア内外を問わず、自身の研究内容を広く社会に伝える機会の創出に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度はコロナ禍の影響が出ていたため、国内での文献を中心とした調査と研究成果の発信に努めていたが、2022年度に入り、現地定着調査を開始することができたのは大きな進捗である。 博論執筆に向けた調査計画は5つの段階に分けており、今年度は第三期までを終えることができた。現地調査では語学習得から着手し、語学の上達とともに、地域住民への全世帯調査・聞き取り調査を開始した。ツァンラ語・チョチャンガチャ語の習得は、来年度の調査〈後半〉に不可欠であることはもちろん、報告者の今後ブータン研究において欠かせないものであり、評価点の一つである。現地語を用いた聞き取り調査を通しては、現地社会への理解が深まった。 また、2021年度に学術誌へ投稿していた博士予備論文に基づく論文(査読あり)を現地にいながらも完成させ、学術活動にも精力的に取り組んだ。 以上のように、定着調査が予定通りに進んでいることからも、全体として研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、昨年度の〈前半〉調査につづき、〈後半〉2023年年5月末から2024年3月頃までブータン東部タシガン県バルツァムでの定着調査を行なう。なお、博論執筆に向けた調査計画は昨年度の〈前半〉を合わせて5つの段階に分けており、今年度は第四期と第五期に相当する。 まず、本報告執筆中の今年度4-5月は、昨年度の調査内容の振り返りと今年度の調査内容の計画に加え、諸々の渡航手続き・事務作業を行なうべく、日本に一時帰国をしている。 〈第四期〉の2023年5月から2023年10月にかけては、昨年度同様、まず首都ティンプーにて調査開始に必要な物資調達と書類手続きを行なう。その後、タシガン県バルツァム郡へと移動し、本研究のメインテーマと昨年度の調査で見出したサブテーマの関係を追求する。具体的にはバルツァムの歴史と生活誌を、個人史・地域史を用いて再構成する。また、村外在住者による首都ティンプー等での宗教実践、村内在住者によるバルツァム内での儀礼の参与観察を行なう。 〈第五期〉の 2023年11月から2024年3月にかけては、第四期まで得られた資料のフィードバックを行なう。また、全体的モノグラフの可能性を考え、派生的テーマを追いつつ、ガムリ川沿いのツァンラ語・チョチャンガチャ語同一方言集団における比較資料の収集(広域調査)を行なう。具体的には、ガムリ川沿いのタシガン県ガリンやビドゥン他、タシ・ヤンツェ県ラムジャール、ペマ・ガツェル県カイリ、ルンツェ県アウツォ、モンガル県ツァマンといった地域であり、同一言語集団の歴史的移住の経験や親族関係、宗教的職能者の広がりについて調査を行なう。
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