2021 Fiscal Year Annual Research Report
新規ヘテロサーキュレンの合成および開殻種に関する化学の開拓
Project/Area Number |
21J22968
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松尾 悠佑 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ナノグラフェン / サーキュレン / ヘテロサーキュレン / シクロデカペンタエン / サドル型構造 / 湾曲ナノグラフェン / GRRM / サドル反転 |
Outline of Annual Research Achievements |
[n]サーキュレンは中心にn員環を有するナノグラフェンである。一方でサーキュレンを構成するベンゼン環を部分的にヘテロ芳香環で置換した分子はヘテロサーキュレンと呼ばれ、導入したヘテロ元素に由来する独自の性質を示す。一般に、サーキュレンの構造は構成する芳香環の数に相当するnの値によって決定づけられ、nが小さいものから順にボウル型構造、平面型構造、サドル型構造をとることが知られている。様々な[n]サーキュレンがこれまで合成されており、最近ヘテロ[9]サーキュレンの合成も報告され、非常に高い平面性を有することが明らかになった。しかしながらnが10より大きいものに関してはひずみの大きさ故に合成に成功した例はこれまで存在しない。このような状況の下で申請者は構造上自由度の高い柔軟な環状前駆体に対して酸化的縮環反応を施すことによって世界最大の[n]サーキュレンであるペンタベンゾペンタアザ[10]サーキュレンを合成を達成した。ベンゼン環の代わりにヘテロ芳香環を導入している点も構造上のひずみを解消したという点で重要である。X線結晶構造解析によってこのサーキュレンがサドル型に歪んだ構造を有することが明らかになった。本来[10]サーキュレンは構造上中心に10π芳香族性を示すシクロデカペンタエンの寄与を考えることができる。しかしながら興味深いことに結晶構造解析から明らかになった詳細な結合長や芳香族性に関する量子化学計算から[10]ラジアレンとしての寄与が主であることが分かった。また、歪んだ構造に起因するサドル反転が非常に低いエネルギー障壁で起こっていることが低温NMR測定と反応経路自動探索プログラムであるGRRMを活用することで実験と量子化学計算の両方の面から明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初申請者はひずみを有するπ共役系化合物の酸化還元特性を調べ、ジカチオンやトリカチオンといった多価酸化種の合成および構造物性相関の解明を目的としていた。このような目的の下、申請者はサドル型に歪んだ[10]サーキュレンを実際に合成することができた。多価酸化種の合成にはいまだ至っていないものの、得られた[10]サーキュレンが(1)歪んだ構造に起因するサドル反転が非常に低いエネルギー障壁で起こっていること、(2)10π芳香族性を示すシクロデカペンタエンの寄与よりも[10]ラジアレンとしての寄与が主であることなどナノグラフェンの化学に対して含十員環化合物に関する新たな知見をもたらすことができた。またここまでの成果を基に筆頭著者として論文を執筆し、受理されるまでに至った。多価酸化種へのアプローチとして現在電気化学測定や量子化学計算を用いて考察を行っており、目標とする分子の合成を達成することができたという点ではおおむね順調に研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策は、(1)得られた[10]サーキュレンに対して窒素上にアルキル基による保護を施し、電気化学測定より求めた酸化電位を参考に酸化反応の検討を行う(2)他のひずみを有する化合物としてボウル型構造のものやらせん構造を有するヘリセンなどに関しても酸化種の検討を行うことの2点を予定している。
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Research Products
(5 results)