2022 Fiscal Year Annual Research Report
Adaptive Discrimination of Risk of Antigens in Immune Memory Dynamics
Project/Area Number |
21J23680
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉戸 香奈 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 免疫応答 / 数理モデル / 予測符号化 / 免疫記憶 / アレルギー / アレルゲン免疫療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、抗原経験に応じて適応的に変化する抗原の有害/無害識別メカニズムを明らかにするために、免疫記憶形成を含む免疫細胞集団動態を記述する数理モデルを構築、その解析を行った。ワクチンの効果などとして見られるように、免疫系は抗原経験に応じて、同一の抗原に対しての応答強度を変化させる。そのため、本研究では”免疫系は抗原の情報を学習するシステムである”と捉え、神経科学や機械学習の分野で用いられる「予測符号化」という概念をモデルに導入した。免疫記憶形成を担う細胞集団(メモリーT細胞)はこれらの予測誤差に基づき形成される。本数理モデルのシミュレーションにより、免疫応答の強度が抗原濃度やその入力速度によって変化すること(抗原量やその入力速度による有害/無害識別)を明らかにし、さらに、アレルギーの発症やその治療法として知られるアレルゲン免疫療法の効果を再現することで、本モデルの妥当性を示した。本年度は特に、「複雑な免疫応答を記述するモデルとしての本数理モデルの妥当性」を示すための解析を行なった。一般的に、入力に対する細胞の応答様式(用量反応関係)は様々であり、線形だけでなく、シグモイド型やステップ関数型などの非線形な様式も多く見られる。そこで、免疫細胞の抗原入力に対する用量反応関係を変化させた場合のシミュレーションを行ったところ、抗原濃度やその入力速度に基づく有害/無害識別やアレルゲン免疫療法の効果は、用量反応関係に関係なく示された。しかしながら、シグモイド型やステップ関数型の用量反応関係を持つ場合、アレルゲン免疫療法の治療後により大量の抗原に曝された時にその応答が強化されること(アレルギー症状の再発)が示された。これは、アレルゲン免疫療法の治療の持続性(再発の有無)の個人差が、一細胞レベルの応答性の違いに由来する可能性を示すものであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに免疫記憶形成を含む免疫細胞集団動態を記述する数理モデルを構築し、そのシミュレーションの結果から抗原量やその入力速度による有害/無害識別を明らかにし、さらに、アレルギーの発症及びその治療法の再現やさまざまな細胞の用量応答を仮定したシミュレーションにより本数理モデルの妥当性を明らかにすることができたため。さらに、これらの結果を国際学会誌に出版することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらに、本数理モデルに、細菌やウイルスに代表される抗原の自己増殖および免疫系によるその排除を導入し、さらに、複数抗原に対する免疫応答を記述する数理モデルに拡張することで、複数の抗原と免疫細胞の相互作用による抗原の有害/無害識別メカニズムを調べ、病原性の細菌やウイルスが免疫系によって排除される一方で、腸内細菌や皮膚常在菌のような一部の抗原が排除されずに体内に保持されるメカニズムを明らかにする予定である。
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