2021 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト多能性幹細胞が有する分化指向性に基づいた血球分化メカニズム解明
Project/Area Number |
21J40090
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
北川 瑶子 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 血球分化 / 転写エピゲノム / iPS細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、複数ドナー由来ヒトiPS細胞を用いて胎児期血球細胞分化を行い、分化効率の個人差から血球分化に必要な転写・エピゲノム制御機構の解明を目的とする。本年度は、血球分化効率および分化した血球前駆細胞の多分化能に差のあるiPS細胞を選出し、造血性内皮細胞から血球前駆細胞の発生過程に転写・エピゲノムレベルの違いがあることを明らかにした。
まず、白血球数が正常値より少ない個人由来iPS細胞と正常値の個人由来iPS細胞を用いて血球前駆細胞を分化させたところ、血液検査結果とiPS細胞由来血球分化効率にある程度の相関が得られた。生体内では遺伝的背景に加え、環境要因が影響を及ぼす上に、分化効率だけでなく分化後の増殖も血球数を変化させるため、試験管内と傾向が一致する必要はないが、一致するものについては遺伝的要因が強いと推測される。また、造血コロニーアッセイを行った結果、多分化能を持つコロニーは白血球数正常値の個人のiPS細胞由来血球前駆細胞でしか発生しなかった。これらの結果から白血球が正常な個人と少ない個人ではiPS細胞由来血球前駆細胞の量的・質的な個人差があることが示された。
次に、血球前駆細胞の量および質に寄与する転写エピゲノム制御を調べるため、血球前駆細胞の遺伝子発現とエンハンサーランドスケープを解析した。その結果、分化効率のよい検体では、血球前駆細胞特異的な転写因子の発現が高く、付近のエンハンサー活性も強いことが明らかになった。今後これらの領域の機能解析を行い、個人差に寄与するSNPの探索を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は複数のiPS細胞を用いた血球分化誘導を行い、臨床データの白血球数と試験管内血球分化効率の傾向が一致するものを選出し、分化過程の遺伝子発現解析を行う予定であった。当初想定した以上に、臨床データとiPS細胞由来血球細胞分化に相関が認められ、血球分化効率の良いものと悪いものを4クローンずつ選出することができた。さらに、分子過程の遺伝子発現解析の結果、iPS細胞など分化初期でなく、血球前駆細胞で個人差がでることが明らかになった。さらに、2年目に行う予定であった血球分化効率と相関する制御因子の発現およびエンハンサー活性の同定も行い、複数因子の発現およびその遺伝子座のエンハンサー活性が分化効率と相関することがわかった。これらの阻害を行うため、現在ゲノム編集およびエピゲノム編集を行っている。これらを総合的に考慮し、当初の計画以上に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果により血球分化効率に影響を与える制御因子およびエンハンサー領域の候補が挙がった。今後はこれらを欠損および活性阻害させ、その影響を明らかにする。具体的には欠損にはCRISPRによるゲノム編集、エンハンサー活性阻害にはdCas9-LSD1とMCP-KRABを用いたdual effector CRISPRiシステムによるエピゲノム編集を行う。評価手法として、血球前駆細胞の遺伝子発現と造血コロニー形成能を調べる。並行して、本年度行ったH3K27acで示される活性化したエンハンサーの解析に加え、H3K4me1, H3K27me3のChIP-seqを行い、血球分化効率に差のあるクローン間でプライムされたエンハンサーや抑制されたエンハンサーの状態に差がないかを調べる。
さらに、血球前駆細胞の転写エピゲノム制御の個人差に寄与するSNPの探索を行う。SNPアレイを行い、グループ間で差のあるSNPのうち機能的に重要な領域と重複するものを中心にSNPの機能解析を行う。これにより、個人差に遺伝的要因による血球分化指向性の個人差およびそのメカニズムが明らかになると期待される。
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