2022 Fiscal Year Annual Research Report
高効率的DNA損傷を指向した中性子捕捉療法用薬剤の開発
Project/Area Number |
22J01754
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上田 大貴 京都大学, 複合原子力科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 中性子捕捉療法 / BNCT / ホウ素 / 大環状ポリアミン / DNA / がん / 放射線治療 / 中性子線 |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子捕捉療法(Neutron Capture Therapy, NCT)は、安定同位体であるホウ素(10B)やガドリニウム(157Gd)を含む薬剤と熱中性子の核反応で発生した重粒子線やオージエ電子を利用した放射線治療法である。これら核反応生成物の飛程距離は細胞1つ分の範囲に収まるため、化合物の分布に依存したがん細胞選択的な治療が可能である。また、このエネルギー付与による細胞死誘導において、細胞の生存に重要な生体分子に対して致死的な損傷を効率的に与えることで高い抗腫瘍効果が期待できる。 生体分子の一種であるポリアミンは核酸と相互作用することや、がん細胞において輸送活性の亢進が見られることが報告されている。そこで細胞核への分布及びがん細胞選択性を示す分子として、大環状ポリアミン誘導体を設計・合成し、培養細胞や実験動物を用いた活性評価を行い、効率的なDNA損傷を指向した新規NCT用化合物の有効性を検討した。本年度、細胞実験の結果から選出した大環状ポリアミン誘導体について、健康なマウスに対する毒性評価により投与量を決定した。また、腫瘍モデルマウスとして、SCCVII細胞を下肢に移植したC3H/HeマウスとA549細胞を皮下移植したBALB/cヌードマウスを作成した。そして、体内動態評価では正常組織と腫瘍組織のホウ素集積量に関して、投与後数時間における経時変化を高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により定量測定した。さらに、大環状ポリアミン誘導体を投与した担癌マウスに原子炉中性子線を照射し、BNCTによる抗腫瘍効果について腫瘍サイズを指標に有効性を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2種類の担癌マウスを作成し、ホウ素化合物の体内動態評価や原子炉中性子線照射による抗腫瘍効果の評価を実施した。その結果、マウスへの適切な照射タイミングを決定し、含ホウ素大環状ポリアミン誘導体がBNCTにより抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。以上の結果から、おおむね予定通りに進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
担癌マウスへの中性子線照射実験において、大環状ポリアミン誘導体がBNCTで必要とされるホウ素量よりも少ない集積量で抗腫瘍効果を示したことから、大環状ポリアミン誘導体の生物学的効果が高いことが示唆された。大環状ポリアミン誘導体の分子構造上の特徴から、核酸との相互作用により細胞核内へ分布し、BNCTによりDNA損傷を効率的に与えることが考えられる。従って、次年度以降、大環状ポリアミン誘導体のBNCTによるDNA損傷や細胞内分布など、詳細なメカニズムを明らかにする予定である。
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