2022 Fiscal Year Annual Research Report
イネにおける光合成誘導反応の多様性をもたらす生理・遺伝的要因の包括的解明
Project/Area Number |
22J11797
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷吉 和貴 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | イネ / 光合成誘導反応 / 自然変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
光強度の急増に対する個葉光合成の応答(光合成誘導反応)は、圃場環境下における作物の生産性向上に関わる重要形質の1つである。本研究では、イネ亜種間、すなわち温帯ジャポニカ、熱帯ジャポニカ、インディカ間の光合成誘導反応の差異を調査し、その生理生態的要因と遺伝的要因について明らかにすることを目的とした。 日本在来イネコアコレクション(JRC)50品種について,弱光から強光の変化に対する光合成速度の応答を観察し,光合成誘導反応の多様性を評価するとともに、イネ亜種間での差異を検証した.結果として、JRCの光合成誘導反応に大きな遺伝的多様性を確認することができた。強光照射後10分間の積算光合成量(CCF10)は、最大光合成速度と有意な相関がなく(r=-0.08)、強光照射直前の光合成速度と密接な相関を示した(r=0.72)。これは先行研究で見られた結果と同様であり、光合成誘導反応と最大光合成速度は独立した要因によって制御されていること、弱光下での光合成活性がその後の光合成誘導反応に重要であることが示唆された。世界のイネコアコレクション(WRC)の結果も含め、イネ亜種間で比較したところ、最大光合成速度については差異が確認されなかった一方で、光合成誘導反応については温帯ジャポニカが、熱帯ジャポニカおよびインディカよりも緩慢であった。温帯ジャポニカは、誘導反応中の炭素獲得量が少ないものの積算蒸散量も少なく、変動光下において水の損失を抑えるという水利用戦略をとっている可能性がある. 以上のように、イネ亜種間における光合成誘導反応の差異を確認し、その生理生態的要因の一端を明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
JRC50品種の光合成誘導反応の測定を完遂し、イネ亜種間における差異を確認することができた。現在、ゲノムワイド関連解析による遺伝的要因の解明に取り組んでいる。WRCにて迅速な光合成誘導反応を示したインディカ品種ARC 11094と温帯ジャポニカ品種コシヒカリに由来する戻し交雑集団を用いた遺伝解析については、BC1F2における表現型データを取得することができた。研究の進捗状況は当初の計画通りである。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度に得られた表現型データを用いて、WRCとJRCを用いたゲノムワイド関連解析、およびARC 11094とコシヒカリの戻し交雑集団を用いた遺伝解析を実施する予定である。表現型データには光合成速度の時系列データだけでなく、出穂日や草丈、地上部乾物重といった農業形質も含まれており、検出された遺伝要因が作物の生産性に与える影響も評価することが可能である。
|