2022 Fiscal Year Annual Research Report
「転移リンパ節におけるがん-リンパ球相互作用」の解明
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22J12764
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
前島 佑里奈 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 乳がん / リンパ節転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳がんは女性で最も頻度の高い悪性腫瘍である。本邦では女性の9人に1人が一生のうちのどこかで乳がんに罹患すると推定されており、女性の人生に最も強く影響するがんの一つであると言える。乳がんの予後因子としては、腋窩リンパ節転移の有無が重要である。腋窩リンパ節転移が予後と強く相関するのは、リンパ節転移を足掛かりとして他臓器への遠隔転移が生じることがあるからだと考えられている。がんがリンパ節という危険な場で増殖できるのはなぜだろうか。リンパ節はそもそも免疫監視機構の中核を担う場であり、限られた数のがん細胞が増殖する場所として、あまりにも不適当であるように思われる。最近の研究により、転移リンパ節においては、免疫系が抑制されていることがわかってきた。一方で、転移リンパ節という局所において、リンパ球がどのような因子・メカニズムによってどのように抑制されているのか、という問いに正確に答えることは依然として難しい。がん細胞と免疫細胞の相互作用を正確に理解するためには、リンパ節におけるがん細胞の広がりや、がん細胞と免疫細胞の位置関係を視覚的・病理学的に捉えたうえで、細胞の状態をできるだけ損なわないように情報を取得する必要があるのではないかと考えた。 申請者は、この問題を解決するために、乳がん患者の転移リンパ節に対して、レーザーマイクロダイセクションと網羅的な遺伝子発現解析(トランスクリプトーム)を組み合わせることを着想した。この着想に基づいて研究を進めたところ、転移リンパ節において、非転移リンパ節と比較して自然免疫に関する遺伝子発現の低下が確認された。空間トランスクリプトーム解析およびイメージングマスサイトメトリーにおいても、これらの現象が確認され、がんの存在との空間的な位置関係によっても、種々の免疫細胞の組成の変化が起こることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
乳がん患者の転移リンパ節に対して、レーザーマイクロダイセクションと網羅的な遺伝子発現解析(トランスクリプトーム)を組み合わせて研究をすすめたところ、転移リンパ節において、非転移リンパ節と比較してある特定免疫細胞(X)を示唆する遺伝子発現の低下が確認された。空間トランスクリプトーム解析およびイメージングマスサイトメトリーにおいても、これらの現象が確認され、がんの存在との空間的な位置関係によっても、種々の免疫細胞の組成の変化が起こることを確認している。
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Strategy for Future Research Activity |
・当初は転移リンパ節において、BMP7の発現低下が認められたが、症例集積を増やして解析を行ったところ、必ずしもすべての転移リンパ節において同様の現象がみられるわけではないことが分かった。再度解析を行ったところ、特定の免疫細胞(X)を示唆する遺伝子発現の低下を認め、免疫賦活化における初動体制の働きが低下することにより、抗腫瘍免疫が抑制されている可能性が示唆された。 ・免疫細胞Xが、転移リンパ節で減少するメカニズムの把握のため、空間トランスクリプトーム解析で特定の免疫細胞(X)と作用する可能性のあるサイトカイン発現や、イメージングマスサイトメトリーにおいて、種々の免疫細胞における免疫マーカーの探索を行う。 ・上記の現象の一般性を確認するため、さらに解析リンパ節の数を増やして、転移リンパ節におけるXのタンパク発現を調べ、予後や再発率との相関を調べる。
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