2022 Fiscal Year Annual Research Report
イネ科木質細胞壁を特徴づけるフェルラ酸架橋構造の形成機構と機能の解明
Project/Area Number |
22J13457
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 千莉 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | イネ科植物 / フェルラ酸架橋構造 / 形成機構 / 代謝工学 / 超分子構造 / 木質バイオマス |
Outline of Annual Research Achievements |
イネ科植物の特徴として、細胞壁におけるフェルラ酸(FA)架橋構造の存在が挙げられる。従来の研究からFA架橋構造は、細胞壁の機能やバイオマス利用特性に大きく寄与していることが示されている。しかし、その生合成機構や機能・特性への寄与の詳細については未解明の点が多く残されている。本研究では、FA架橋構造の形成機構と機能の解明を目的とする。申請者はこれまでに、FA架橋構造形成に特異的に寄与するイネFA合成酵素(アルデヒドデヒドロゲナーゼ;ALDH)の同定に成功するとともに、FA架橋構造が減少したALDH欠損ゲノム編集イネ株の作出に成功した。特別研究員として、独自のFA架橋構造改変組換えイネ株を活用し、細胞壁超分子構造やバイオマス利用特性を体系的に精査することで、各種特性に対するFA架橋構造増減の効果とその作用機構について分子レベルで明らかにする。 令和4年度は、細胞壁の超分子構造に及ぼすFA架橋構造の影響を調べるため、まず、FA架橋構造の形成を抑制したALDH欠損イネ株を温室で大量に栽培した。作出したALDH欠損イネ株について細胞壁試料を調製し、固体NMR法やX線法による固体高次構造解析を行なった。その結果、FA架橋構造形成の抑制により、細胞壁中のセルロースの結晶性などに顕著な変化が起こることが分かった。現在、ALDH欠損イネ株における細胞壁超分子構造の解析をさらに進めるとともに、FA架橋構造の形成を促進させたALDH過剰発現イネ株の作出にも着手している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書等に記載した研究計画に沿って、おおむね順調に研究成果を得ることができたと言える。2022年度は、まず、FA架橋構造の形成を抑制したALDH欠損イネ株を温室で大量に栽培を行った。作出したALDH欠損イネ株の評価については、細胞壁超分子構造の解析を目指し、まず、調整した細胞壁試料について、アルカリ加水分解によるFAの定量解析、チオアシドリシス法やKlason法によるリグニン分析やアルジトールアセテート法による中性糖分析などの化学分析を実施し、細胞壁の構成成分について再度精査した。この時点で、ALDH欠損イネ株についてFA架橋構造の形成が抑制されていること、FA架橋構造の抑制により、リグニンや多糖の細胞壁構成要素に変化が生じることが確認できた。次に、FA 架橋構造低減に伴うリグニンと多糖の混和/パッキング状態・分子運動性・分子間相互作用などの変化を定量的に明らかにするため、固体 NMR 法及び X 線 法による固体高次構造の解析を行なった。その結果、FA架橋構造形成の抑制により、細胞壁中のセルロースの結晶性などに顕著な変化が起こることが分かった。さらに、FA架橋構造の形成を促進させたALDH過剰発現イネ株の作出にも着手し、複数の組換えラインの取得にも成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、昨年度に引き続き、FA架橋構造改変イネ細胞壁の更なる超分子構造解析を進める。特にFA架橋構造を抑制したALDH欠損イネの細胞壁試料について、固体NMR(緩和時間測定)による細胞壁構成ポリマーの分子運動性の解析や小角X線散乱によるナノ-メソ構造の詳細解析を行う。また、GPCを用いた細胞壁架橋密度の解析も計画している。さらに、昨年度から作出を進めているFA架橋構造を増強したALDH過剰発現イネ株や、研究代表者の所属研究室における先行研究で得られているリグニンの芳香核組成を改変した各種イネ組換え株についても同様の細胞壁の化学構造解析及び超分子構造解析を行い、細胞壁超分子構造へ及ぼすFA架橋構造やリグニン芳香核組成の寄与を明らかにする予定である。
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