2022 Fiscal Year Annual Research Report
スピノザ哲学の源泉としてのオランダ・デカルト主義――観念の実在をめぐって
Project/Area Number |
22J14121
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
榮福 真穂 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | スピノザ / オランダ・デカルト主義 / デカルト / 観念説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、スピノザの観念説の特異性を、その思想的源泉と考えられるデカルトおよびオランダ・デカルト主義思想との比較を通して詳らかにすることである。この問題意識のもと、2022年度は(1)デカルトの観念説における実在性(realitas)概念の解明、(2)スピノザ初期思想におけるオランダ・デカルト主義の影響の検討、の2つの軸で研究を遂行した。 (1)まずは、本研究全体の出発点として押さえるべきデカルトの観念説について、二種類の「実在性」に着目して整理を行なった。この成果は論文「『省察』の観念説における質料形相論」として発表された(同論文で日仏哲学会若手研究者奨励賞受賞)。次に、この主題についての近年の重要文献であるFrancesco Marrone, Realitas obiectiva: Elaborazione e genesi di un concetto, 2018を読み、書評を執筆した。本書はデカルトの対象的レアリタス概念を直接的に取り扱うものではないが、スコトゥス主義の系譜における当該概念の生成・発展という文脈についての理解を深めることができた。 (2)いまだ蓄積の少ないオランダ・デカルト主義研究に取り組むため、2022年度はその背景の把握とスピノザとの思想的接点の把握に努めた。まず、厳密にはデカルト主義者ではなく新スコラの系譜に属するへーレボールトの著作を読み解き、デカルト主義と改革派神学の折衷的な神論のあり方を把握した。次に、同様の問題意識からスピノザの初期著作を分析し、初期著作に見られる伝統的神学と共通の論点が、のちの『エチカ』の体系構想に繋がりうる着想を含んでいることを指摘した。以上の研究をまとめ、「スピノザ平行論の起源をめぐる考察:『短論文』における神学的議論を手がかりに」と題する研究発表を日仏哲学会春季大会にて行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時の予定では、一年目に(a)デカルトの観念説についての包括的整理、(b)オランダ・デカルト主義の諸著作における観念のレアリタスの扱いについてのサーベイ、この2つを行うことになっていた。(a)についてはおおむね順調と言える。他方で(b)については、神、実体、世界といった体系全体の把握にとどまり、観念説に絞った詳細な検討を行うには至らなかった。とりわけへーレボールトの著作における“idea”の扱いがスコラ的であり、彼の非デカルト的側面が反映されたものになっていたことが、スピノザとの接続を困難にしている。そこで、申請時に予定していたもう一人の思想家であるフーリンクスの著作の方がスピノザとの思想的接点を持ちうるのではないか、という見通しを持つに至った。スピノザへの直接的影響が指摘されているのはへーレボールトであるが、著作の内容における類似性が指摘されているのはむしろフーリンクスである。また、Alexander Douglas, Spinoza and Dutch Cartesianism: Philosophy and Theology, 2015などの先行研究の渉猟により、ウィティキウスの『反スピノザ』の検討が観念説の対比にとって有益であるという見通しを得た。このように、対象とするテキストを拡張する必要が生じたことにより、当初の予定よりも実際の分析作業が進んでいない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」に記したことから、今後取り組むべきは以下2点である。 (1)フーリンクスおよびウィティキウスの観念説の概観 (2)スピノザの観念説への影響の解明 とりわけ(1)は時間のかかる作業となることが予想される。膨大なテキスト群のうちでいたずらに迷わないよう、前述のDouglas(2015)らの先行研究を手引きとしつつ研究を進める。著作の全体を理解することに拘りすぎず、観念説およびそこでのrealitas概念の扱いに要点を絞って考察する。(2)にはすでに着手済みであるが、今年度の『エチカ』『短論文』の分析に加え、次年度は『知性改善論』も分析の対象とする。これにより、初期思想から『エチカ』への発展も踏まえたスピノザの観念説への理解をさらに包括的なものとしていく。
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