2022 Fiscal Year Annual Research Report
温湿度変動による文化財資料の変形・損傷予測に基づいた収蔵施設の環境制御方法の提案
Project/Area Number |
22J15027
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石川 和輝 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 文化財保存 / 壁画 / 白土 / ひずみ / 割裂引張試験 / 圧縮試験 / ポロメカニクス / 材料内温度・含水率・応力・ひずみ予測 |
Outline of Annual Research Achievements |
温湿度の変動による文化財資料の変形・損傷予測に基づき,文化財収蔵施設の建物・空調の設計・運用方法を提示することを目的として研究を進めている.具体的な文化財資料として重要文化財に指定される壁画を対象としており,これは多層の土壁の上に白土の下地が塗られその上に顔料が塗られている.本研究では,乾湿に伴う壁画下地白土および下地下層表土の割れを予測するモデルを作成し,それに基づいて保存環境制御方法を検討することとした.本年度は白土の模擬試験体を作成し,割裂引張試験による引張強度測定,圧縮試験による弾性率・圧縮強度の測定,乾燥・湿潤時に生じるひずみ測定を行った.白土は,奈良時代以前から鎌倉時代までの国内の建築物や塑像の材料として利用されてきたが,その材料物性は明らかにされてきていない.文献調査により壁画に用いられた白土は粘土に植物繊維,膠着材が加えられた材料であると考えられたが,配合比が不明であったため模擬試験体は材料配合率を変えた9通りを作成した.割裂引張試験,圧縮試験においては,強度,弾性率や壊れに至るまでの挙動に湿度依存性が予測されたため,試験体の平衡湿度は炉乾から相対湿度84%平衡までの4通りとし,計36通りの強度・弾性率を取得した.これらは資料の変形・損傷予測モデルの入力値として用いる.本測定の成果は令和5年度の日本建築学会大会などで発表予定である.さらに,9通りの材料配合率で作成した模擬白土の乾湿時に生じるひずみを測定し,結果を令和4年度の日本建築学会大会,日本文化財科学会大会で発表した.また,並行して数値モデルの作成を進めており,材料内熱・水分同時移動モデルと含水率に応じた多孔質材料内の間隙圧を考慮した材料変形を予測するポロメカニクス理論を連成し,有限要素法を用いて離散化することで,環境温湿度変動時の材料内温度・含水率・ひずみ・応力分布を同時予測するプログラムを作成した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文化財資料の変形・損傷予測モデルの開発とそれを用いた収蔵施設の設計・運用方法の検討を計画している.収蔵施設の温湿度予測モデルは,既に完成している.具体的な文化財資料として重要文化財に指定される壁画を対象としており,これは多層の土壁の上に白土の下地が塗られその上に顔料が塗られている.本研究では,乾湿に伴う壁画下地白土および下地下層表土の割れを予測する数値モデルを作成し,それと収蔵施設の温湿度予測モデルを併せて用いることで,保存環境制御方法を検討することとした.壁画白土層,表土層の割れを予測するためには,白土・表土の強度・弾性率,湿気伝導率や熱伝導率などの熱・湿気物性,水分状態と変形状態を結び付けるための乾湿時ひずみの取得が必要である.さらに,境界条件として入力するための表土より下層の土壁中塗土層の乾湿時ひずみも取得する必要がある.これまでに材料配合率を変えた白土の模擬材料を作成し,乾湿時のひずみ測定,平衡湿度を変えた試験体を用いた割裂引張試験による引張強度測定,圧縮試験による弾性率・圧縮強度の測定を行った.各模擬試験体の平衡含水率も測定済みである.以上の試験により,壁画の変形・損傷予測モデル作成に必要な白土の機械物性のすべてと水分物性の一部の測定が完了した.また,これまでに材料内熱・水分同時移動モデルと含水率に応じた多孔質材料内の間隙圧を考慮した材料変形を予測するポロメカニクス理論を連成し,有限要素法を用いて離散化することで,継時変化する環境温湿度に対し,材料内温度・含水率・ひずみ・応力分布を同時予測するプログラムを作成した.これに壁画の寸法情報や構成材料の物性を入力すれば,壁画の応力予測が可能である.さらに,予測した応力と測定した強度を比較することで,壁画の損傷が予測可能となる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,壁画下地下層の表土について,割裂引張試験による引張強度測定と圧縮試験による弾性率・圧縮強度測定を行う.表土の構成材料と配合比は文献調査により明らかにしており,左官技術者の協力を得つつ模擬試験体を作成した.白土と同様に機械挙動の湿度依存性が予測されたため,炉乾から相対湿度84%までの4通りの平衡湿度の試験体を調湿中である.さらに,表土と表土より下層の中塗土の模擬試験体に対し,乾湿時のひずみを測定中である.また,白土・表土の模擬試験体に対し,カップ法による湿気伝導率測定を計画している.以上の測定の結果を入力値として,環境温湿度変動時の壁画内温度・含水率・応力・ひずみ予測を行う数値モデルを完成させる.不足する物性値については,類似の材料を既往文献から探して用いることとする.応力と測定した強度の比較により,壁画の損傷を予測する数値モデルを完成させる.既に収蔵施設の温湿度予測モデルは作成済みであり,建物の設計や空調導入・運転方法を変えたときの経時的な温湿度変動を予測し,壁画の損傷予測モデルに入力する.この検討を通し,文化財資料の損傷を防止するための収蔵施設の建物,空調の設計,運用方法を明らかにする.
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