2022 Fiscal Year Annual Research Report
契約農業への参加をめぐる農家の生計戦略:ケニアにおける輸出作物の栽培を事例として
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22J15102
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久保田 ちひろ 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 小規模農家 / 商業的農業 / 園芸作物 / アグリビジネス / 開発社会学 / 生計の多様化 / 水の利用 / 地域組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2022年4月14日から7月14日、さらに2023年1月9日から3月8日の2回に分けて約5ヶ月間の現地調査を実施し、データの収集を中心に研究を進めた。 1回目の現地調査では、農家が契約農業に参加する要因を明らかにすることを目的として実施した。そのために、農家が置かれている社会経済的状況からその要因を検証した。 主な成果は、以下の三点である。一点目は、これまでのグループでの契約を停止し、個人の契約へ移行した経緯をグループのリーダーの聞き取りから明らかにした。二点目は、91名の農家に対して質問票調査を実施し、各農家の社会経済的属性と、現在の商業的作物の栽培状況に関するデータを得た。三点目は、調査地近郊の都市における市場と、調査地で生産された農作物の出荷先の都市における市場で調査を実施した。これにより、調査地における農作物の流通状況を明らかにした。 2回目の現地調査では、調査地における季節変化を含めて分析するため乾季に調査を実施し、①いかに乾季に農業用水を利用しているか、②乾季における契約農業の運営実態の2点を明らかにすることを目的とした。 農業用水については以下のことが明らかとなった。調査地では、主にエンジンポンプを使って小川の水を汲み上げて灌漑を行う方法が取られていた。公的には小川から給水することは禁止されているため、農家は夜間に汲み上げ、ため池に貯水している。また、経済的に余裕のある農家は圃場近くに井戸を建設し、地下水を利用していた。さらに調査地では、公共政策として重力灌漑が敷設されており、一部の農家はそれを利用していた。契約農業については、乾季に契約農業を実施できている農家は2世帯のみであり、乾季における代替的な作物選択となっていないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり現地調査を2回実施し、データを収集することができた。ただし、調査項目については、より現実に即したものに変更した。具体的な調査項目と結果については、上記「研究実績の概要」に記載したとおりである。 当初は本年度初回の調査で、契約農業に参加する農家の社会経済的状況を明らかにする予定であった。そこで、質問票を準備した上で、各農家を訪問し、半構造化インタビューで、農家の社会的属性と家計調査にかんするデータを収集した。家計調査は、具体的な支出金額を細かに聞き取ることが難しかったため、大きな割合を占める支出項目を聞き取ることとした。収入金額についても同様に、昨年の家計収入の詳細な金額の代わりに、主にどのような収入を得ているのかを聞き取った。 これらの当初計画していたことに加え、契約の方法がグループと企業の契約から個人と企業の契約へと予期しない変化をしたため、その点についても質問項目に加えた。さらに、当初は計画になかった契約対象作物以外の商品作物の流通についても調査を実施した。これらのことにより、当初の予定以上に契約農業にかんする包括的なデータを収集することができた。 本年度2回目の調査は、当初、2022年9月から12月を予定していたが、2023年1月から3月に変更しなければならず、調査地は乾季にあたる時期であった。それを受けて、2回目の現地調査では、自然環境状況を明らかにするために、特に乾季における調査地の水利用と、個人契約へ移行した後の乾季の契約農業の運営状況について調査を実施した。 以上のとおり、現地調査については当初の計画以上のデータを収集することができたが、一方で、論文の投稿については実現できなかった。この点については、次年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
調査対象とする契約農業がグループから個人への契約に移行するという予期しないグループの変容があった。今後は、この変容を含めて分析していく必要があると考えている。当初の研究計画では、(A)農家の社会経済的状況、(B)農作物の生産過程、(C)組織による機会と制約の三点から調査地における契約農業が農家に与える影響を論じる予定であった。今年度の現地調査では、当初予定していた調査項目についてデータを収集することができた。したがって、今後は、このグループの変容を新たな調査項目として加え、聞き取り調査により詳細な質的データを収集したい。 契約農業グループとして発足したグループは、企業側との軋轢が生じ、グループとしての契約を終了し、個人との契約に移行している。この時、グループの契約農業に参加していた農家の一部が個人での契約を継続していることを、本年度の調査で明らかにした。これらの選択には、各農家が持つ圃場の大きさや、企業側への不信感をどれほど持つのか、といった多様な状況に基づいて判断されている。この状況を、農家の生計戦略の新たな側面として分析していく。 今後は博士論文の執筆と並行して、投稿論文も積極的に執筆していく。その中で、必要とされるデータがあれば、2023年度中に短期間の現地調査を実施する予定である。
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