2022 Fiscal Year Annual Research Report
電子流体力学で切り拓くスピントロニクスのフロンティア
Project/Area Number |
22J20221
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 涼太郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 電子流体力学 / スピントロニクス / 角運動量輸送 / マグノン流体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では流体力学的アプローチを基軸として、電子流体力学とスピントロニクスの融合を目指している。このような方法論は、その汎用性の高さから粘性効果や非線形性、結晶対称性を直観的に取り扱うことができるため、従来のスピントロニクスの困難を解決する画期的な方法であると期待される。 本年度はまず、流体中の渦度と電子の角運動量の結合に注目し、電子流体において粘性がもたらす新奇な角運動量流としてバレー輸送現象を明らかにした。流体粒子の内部角運動量を取り扱う枠組みであるマイクロポーラ流体力学を参考に、電子の持つバレー角運動量を含む電子流体理論を定式化した。これにより、内部角運動量と渦度との間に生じる回転粘性がバレー流を生成することを明らかにした。以上の成果は国際論文誌に投稿中である。 また電子流体力学の新たな研究の方向性として、流体力学の主役を電子から磁性体中のマグノンに置き換えた「マグノン流体力学」の構築も目下の課題である。本年度はまず、マグノン流体力学の定式化を行ったのち、マグノンの運ぶスピン流と熱流の関係性に着目することにより、従来成り立つWiedemann-Franz則がマグノン流体中では大きく破れることを明らかにした。これは流体力学領域に特有な現象であり、マグノン同士の散乱過程においてスピン流と熱流の緩和プロセスが異なることに起因する。スピン流と熱流の関係性に焦点を置いた本研究は、スピンカロリトロニクス分野に対しても新たな知見を与えると期待される。本成果は国際論文誌Physical Review Letters にて受理済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画である流体中の渦度と電子の角運動量の結合による新奇バレー輸送現象の解明に加え、マグノン流体力学の構築にも着手し、重要な研究成果を得ている。これらの成果は、従来の電子流体力学に対し新たな研究の方向性を示すものであるのみならず、バレートロニクスやスピントロニクスといった応用分野にも新たな視点や展開をもたらすものであると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、スピンと渦度の結合が創発する異常スピン輸送現象を微視的な視点から明らかにする。具体的にはまず、非平衡グリーン関数とボルツマン輸送理論を相補的に駆使して、スピン自由度を含む流体方程式を微視的に定式化する。次に、スピン・渦度結合の効果を取り込んだスピン拡散方程式を導出する。最後に、スピン自由度を持つ流体を対象とした群論に基づく対称性の考察を行い、現象論的にスピン拡散係数および流体力学係数を決定する。そして、本研究を通して得られた結果の正当性を検討しつつ、流体力学の現象論的パラメータとそのミクロな起源の関係性を明らかにする。 これらの研究成果については継続的に国内外の研究会において発表し、学術論文としてまとめ論文誌に投稿する。また電子流体の研究は国外の方がより活発であるため、海外研究者との積極的な交流を図ることで、自身の研究成果の位置づけや実験との関係性について客観的な理解を深める。
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