2022 Fiscal Year Annual Research Report
開弦の場の理論とバルク再構築による量子重力理論の探究
Project/Area Number |
22J20722
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹田 大地 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ホログラフィー原理 / AdS/CFT対応 / バルク時空再構築 / 弦の場の理論 / 量子重力理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、量子重力理論の理解に向けてホログラフィー原理におけるバルク時空再構築と呼ばれる分野に目を向けている。ホログラフィー原理では、重力を含まない量子論が、ある種の重力理論と等価であるという主張であり、どのような量子論がどのような重力理論と等価であるかの一般論は判明していない。バルク時空再構築では、ホログラフィー原理で判明している対応関係の辞書を仮定して、与えられた量子論から重力理論の時空(幾何)を具体的に構成することで、上の問題に取り組もうとするものである。 本年度の1つ目の成果として、バルク時空再構築の既知の手法である光円錐切断法を補強した点がある。私の単著としてJHEPから出版された論文では、2次元の量子論のエンタングルメント・エントロピーから出発して、重力理論の時空(3次元)を具体的に構成した。光円錐切断法は従来、時空の因果構造を特定することができるが、時空で空間的に離れた二点間の距離を測ることはできなかった。ここへ、独立に発展してきたhole-ographyという手法を融合させ、距離までを特定することを可能にした。しかし、hole-ographyで予想されているいくつかの事項は依然として予想にとどまり、一般的に成り立たせるためには修正が必要であることがわかっている。また、hole-ographyは3次元でのみ知られている手法であった。これを高次元にも拡張できる可能性を示したプレプリントも同僚との共同研究としてプレプリントを発表した。 一方で本研究は、弦理論の1つの定式化とて知られている弦の場の理論へバルク時空再構築を適用しようと試みている。弦の場の理論では真空を理論の解として見つけることで、それに応じて量子論が得られる。私と共同研究者は、解の一般的な記述に向けた論文をPTEPへ投稿し、その論文はeditor's choiceとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
バルク時空再構築における光円錐切断法を補強するという点において、計画では2点取り上げた。まず研究実績の概要にあるように、距離を特定する点の研究は進めることができた。また同じ研究では、光円錐切断法の出発点を、多点相関関数の計算ではなく、エンタングルメント・エントロピーに取り替えることができる点においても進展を与えられた。しかしもう1つの中間目標は、重力側が漸近的に反ド・ジッターとならない時空に対してもバルク時空再構築を適用できるように拡張することであるが、この点に対する成果はまだない。計画を立てた当時は、漸近平坦、漸近ド・ジッターに対するホログラフィー原理の研究が比較的盛んに行われていたが、その後この分野では、著しい発展は得られずにいる。この理由として、反ド・ジッター時空に関するホログラフィー原理(AdS/CFT対応)は、弦理論から具体例が演繹された点で対応関係の辞書が作りやすかったが、平坦やド・ジッターの場合はそのような例がないため、手探りであるという点がある。バルク時空再構築では辞書を仮定して量子論から時空を構成するため、辞書があまり開発されていない現在ではこの方向の発展が困難となっているのが現状である。 弦の場の理論に関しては、既存の解を統一的に記述できる代数的枠組みを開発できた。これは本研究の最終目標である、解を取り替えてバルク再構築を試すということへ前進したと言える。問題は、これを用いて多重Dブレーン解を構成し、そこでの有効理論を作ることである。計画の段階と比べて、この問題に取り組むための道具は揃えることができたと言えるが、それを解の構成にどう応用すれば良いかはまだ明確になっていないため、今後検討していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目標は、バルク時空再構築をさまざまな量子系に適用し、(量子)重力理論の解明に向かうことである。この目標として、場の量子論を統一的に扱い得る弦の場の理論を用いることが当初の計画である。引き続きこの方向性は進めていくが、進捗状況で報告したように、漸近反ド・ジッター時空以外に対してのバルク時空再構築や、多重Dブレーン解の構成において困難に直面しているのは事実であり、最終目標に対する成果にはより長い期間が必要となりうる。 そこで、私と受け入れ研究者の橋本氏を含む研究グループが本年度に発表したプレプリントが、同じ目的を部分的に果たす別の方向性を示唆しているため、検討する価値があると考えている。そこでは、物性実験の研究者と共同で、現実の物質からAdS/CFT対応に従うものを探す方法を提唱した。現在は将来的な実験の実現に向けて具体的な物性モデルを物性理論の研究者と共同研究している。この方向性を探求すると、多様な物性モデルを用いて重力理論にアプローチできる。現実の物質を用いると、対応する時空は漸近反ド・ジッターに限られてしまう恐れがあるが、逆に、比較的よくわかっている技法を使えるため、バルク時空が比較的構築しやすい。 またそれと独立して、漸近反ド・ジッター時空以外へバルク時空再構築を拡張することは、当初の計画を実現するためにも必要である。最近、ド・ジッター時空のホログラフィー原理に対する新たな辞書が研究されている。それは量子論のエンタングルメント・エントロピーと重力側の時空の幾何学に関するものであり、これは私の本年度の研究で用いたhole-ographyの考えが使える可能性がある。この点から、バルク時空再構築の漸近反ド・ジッター時空以外への応用を考えることは有意義であると思われる。
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