2022 Fiscal Year Annual Research Report
低電界および高電界における炭化ケイ素中のキャリア輸送機構と異方性の解明
Project/Area Number |
22J21279
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石川 諒弥 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 炭化ケイ素 / 移動度 / キャリア輸送機構 / 異方性 / バンド構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭化ケイ素(SiC)中のキャリア輸送機構を明らかにするため、本年度は、低電界の正孔移動度にフォーカスした研究を行った。様々なドーピング密度を有するSiC(11-20)単結晶上にHallバー構造を作製し、広い温度範囲においてHall効果測定を行うことで、異方性を考慮した正孔移動度の評価に取り組んだ。その結果、c軸方向([0001]方向)の正孔移動度が、c軸垂直方向と比較して10%程度低いことを実験的に明らかにした。また、実験結果に基づき、正孔移動度の温度依存性・不純物密度依存性・輸送方向依存性を包括的に再現する経験式を決定した。これらの結果は、SiCデバイスの特性計算や最適設計に不可欠な指針である。さらに、正孔移動度の異方性の起源に関して、有効質量の異方性に着目した理論的検討を行った。実験的に得られた正孔移動度の異方性と、先行研究により得られている価電子帯頂上での有効質量の異方性が大きく乖離していることを踏まえ、厳密な比較のためには正孔のエネルギー分布を考慮に入れるべきだと着想した。結果として、SiCのバンド構造と正孔のエネルギー分布から計算された平均的な有効質量の異方性により、正孔移動度の異方性が定量的に説明できることを明らかにした。これらの知見および移動度の異方性の起源に関する解析手法は、他の異方性を有する半導体材料におけるキャリア輸送機構のさらなる理解にもつながる、有用な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の現在までの研究により、低電界移動度については、電子・正孔の両方について系統的な定量が達成された。特に、実験結果に基づいて決定された、移動度の温度依存性・不純物密度依存性・輸送方向依存性を包括的に再現する経験式は、デバイス特性を正確にシミュレーションし、最適設計をするために欠かすことのできない、重要な指標である。また、電子・正孔ともに、移動度の異方性の起源が、キャリアのエネルギー分布を考慮した平均的な有効質量の異方性にあることを定量的に示しており、深い物理的理解が得られている。以上の知見は、学術・産業応用の両観点で重要なものであり、研究の進展はおおむね順調であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
高電界のキャリア輸送特性にフォーカスした研究に取り組む。 絶縁破壊時や負荷短絡時のデバイスシミュレーションに不可欠である”高電界下でのドリフト速度”は、一般の半導体材料において一定値に飽和することが知られており、その飽和値は低電界移動度からは予測できない。この高電界ドリフト速度を実験的に定量するために、Time of Flight法(過剰キャリアによる電流の時間変化を観測することでドリフト速度を直接的に決定する手法)やコンダクタンス法(抵抗率測定からドリフト速度を間接的に決定する手法)など複数手法を検討する。素子設計・作製から測定系構築までを遂行し、電子・正孔ともにSiC中の高電界のキャリア輸送特性の決定を目指す。
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