2022 Fiscal Year Annual Research Report
高周期元素の超原子価状態に基づく拡張π共役系の構築と機能材料応用
Project/Area Number |
22J23316
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷村 和哉 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 超原子価化合物 / π共役系分子 / ビスマス / 刺激応答性 |
Outline of Annual Research Achievements |
・π共役系骨格を有する超原子価ビスマス化合物のLewis酸性と刺激応答性の評価 研究員は昨年度の研究にて、第6周期15族元素のビスマスとπ共役系骨格であるアゾベンゼンを用いて新奇超原子価ビスマス化合物の合成に成功している。本年度では、中心元素であるビスマスのLewis酸性を実験的および量子化学計算の観点から評価し、先行研究の超原子価スズ化合物との比較を行った。その結果、超原子価化合物の刺激応答性において、Lewis酸性の強弱だけでなく中心元素の立体的な効果が優位に作用することを明らかにした。これは、さらなる刺激応答性分子を設計する上で重要な知見となると考えられる。 ・超原子価ビスマスの刺激応答性を起点としたπ共役系骨格の分解性の制御 近年、分解性を有するπ共役系骨格として、イミン構造が分解性高分子の設計として注目されている。一方で、イミン構造は意図しない加水分解によって分解してしまうため、分解性の制御に向けたさらなる設計が求められている。研究員は超原子価ビスマスの刺激応答性によって、任意のタイミングで分解点の保護及び脱保護が可能なπ共役系分子の合成に取り組んだ。その結果、イミン骨格を有する超原子価ビスマス化合物の合成に成功し、加水分解への耐性を付与することにも成功した。また、弱い酸性条件に付すことで容易に分解することも確認され、新たな分解性プラスチック材料の設計指針になることが期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、研究員が独自に見出した「超原子価状態を利用した物性制御」を志向した戦略的分子設計に基づき、様々な刺激応答性の発現と新規材料の創出を提案した。まず、刺激応答性については、修士課程における研究で第5周期14族元素のスズ(Sn)においてルイス塩基分子の配位と配位数変化によるπ共役系骨格の電子状態の変化を確認していた。さらに昨年度の研究において、第6周期15族元素のビスマスを同様のアゾベンゼン骨格に導入することで、より高い刺激応答性を発現することを明らかにした。また、異なる族周期の元素間での刺激応答性を比較評価することは非常に難しいが、実験的あるいは量子化学計算によるルイス酸性の評価を実施することで、空間的な影響が超原子価化合物の刺激応答性における重要な観点であることを明らかにした。また、量子化学計算による評価方法を適応することで、今後より高い刺激応答性を示す可能性のある分子群を探索することも可能となった。これは今後の研究において、更なる刺激応答性の開拓や元素間の比較による超原子価化合物における刺激応答性の根源的な理解につながると考えられる。また、超原子価化合物の刺激応答性を利用したπ共役系骨格の分解性制御についても進展が見られた。分解性π共役系骨格として知られるイミン構造は加水分解性を有しているが、配位子として超原子価状態の形成をさせることによって、水との混和状態においても非常に安定に骨格構造を保っていることが明らかとなった。加えて、この骨格は酸条件においては容易に分解することも明らかとなり、分解性の制御可能な骨格として非常に有用であることが示された。 以上のように、当初の計画を概ね達成したことに加え、予期せぬ物性や分子設計指針を見出せたことから、当初の計画以上に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き超原子価状態を利用した物性制御を志向した、刺激応答性に対する知見を深め、新奇材料の創出を行う。まず、これまで異なる元素であるスズとビスマスについて比較することで、空間的な影響と元素の特性が刺激応答性に与える傾向に関する知見を得ている。これを踏まえ、さらに別元素であるアンチモン(Sb)についても合成および評価を行うことで、超原子価状態の刺激応答性に関する新たな知見を得ることが期待される。さらに、超原子価化合物の刺激応答性を触媒として利用することで、外部環境にも影響を与えることができるようなセラノスティクス材料の創出にも取り組む。
|
Research Products
(10 results)