2021 Fiscal Year Annual Research Report
情報学を活用した移動現象制御手法の開発とパワー半導体作製プロセスへの適用
Project/Area Number |
21J20401
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
竹原 悠人 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 数値計算 / 結晶成長 / ベイズ最適化 / 機械学習 / PINN / SiC半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素とケイ素からなる炭化ケイ素(SiC)と呼ばれる半導体の作製プロセスにおいて、高品質な半導体を与える作製条件の効率的な探索と、物理法則を学習する機械学習であるPINNの適用を行った。 SiC半導体の作製では速い作製と均一な作製という2つの要件は相反する関係を示し、同時に改善するには限界がある。つまり、作製速度を上げると均一性が失われ、均一性を上げると作製速度が落ちる。このような関係をトレードオフと言う。本研究ではベイズ最適化と呼ばれる最適化手法を用いて、作製速度と均一性のどちらかを重視した場合の最適な作製条件を調べた。その結果、重視の度合いに応じた異なる作製条件を得ることに成功した。さらに異なる重視度合いにより、作製条件の探索が変化しトレードオフの関係を詳細に解析することが出来た。これにより、求められる作製要件を満たす作製条件を正確に得ることができる。 次に、PINNを適用しプロセス内の流動を高速に予測することで解析速度の向上を目指した。しかしながら、時々刻々と激しく変化する流動を予測することは困難であることが判明した。 そこで、PINNのもう一つの特徴である逆解析に注目した。PINNによる逆解析とは、物質固有の値(物性値)を、得られた観測データから逆に推定することである。逆推定により、測定が困難なため現在でも曖昧な値が使用されている物性値を逆推定することで、数値計算をより正確に行うことが出来る。半導体作製プロセスの数値計算には、測定が困難な約1800℃における物性値が必要である。そこで本研究では、温度に依存する熱拡散率の逆推定を行い、プロセス内の速度場、温度場の振る舞いから精度良く物性値を逆推定することに成功した。ただし、今回は試験的な検証のために実験データではなく、数値計算により得られた結果を擬似的な実験データとして扱った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画であったベイズ最適化における目的関数依存性の検証に関しては想定通りの結果が得られたことに加え、複数の目的関数を使用することでパレート解を詳細に同定することに成功した。こちらの研究においては、計画以上に進展があり論文を執筆中である。 しかし、Physics Informed Neural Network (PINN)を用いた数値計算の高速化については研究計画に修正が必要な状況である。二次元定常熱伝導のような簡単な支配方程式に対しては、異なる境界条件、形状における温度分布を高速に予測することが出来た。その一方で、マランゴニ対流のような局所的に高い圧力をもつ系では、解の予測が困難になることがわかった。これはニューラルネットワークが急激な変化を予測することが困難であることによるものである。これを解決すべく様々な方法を試みたが解を予測することが出来なかった。 以上のPINNを作製する中で、任意の点において支配方程式を計算するために、生成項を任意の点で予測するPINNが必要であった。当初の目的であった数値計算の高速化は困難であったが、このPINNを使用することで計算結果の解像度を上げるという利用法があることが判明した。実際、支配方程式を学習することで、少ない計算格子からでも計算格子間の生成項を高精度に予測でき、結果の高解像度化が可能であることがわかった。これにより、現在使用されている弱連成モデルを高精度化することが出来る。 さらに、実験結果と支配方程式を学習することで測定が困難な物性値を逆推定することにも取り組み、溶液内部のデータから物性値の推定を行うことに成功した。しかし、溶液内部のデータは観測が困難であるので、今後は観測が容易なデータからの物性値の逆推定を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画ではPINNを用いた数値計算の高速化が目的であったが、PINNによる非定常流れへの適用の困難さが露呈したため、今後はPINNを用いた数値解析の発展を目指す。 PINNは訓練データに加えて支配方程式も学習する。そのため、計算格子間の値を、支配方程式を満たすように予測することができる。これにより、数値計算で得られた結果の解像度を自在に変化させることができる。この特性を利用して計算格子に依存しない解析手法を確立し、数値計算を高精度化することで数値解析を発展させる。現在、数値計算により得られた結果を確実に信頼できるデータとして学習し、計算格子間の結果を予測している。しかし実際には数値計算自体も計算格子に依存する。そこで、今後は訓練データの学習による重みの更新幅を徐々に減少させ、最終的に境界条件と支配方程式のみを学習するPINNを作成し、完全に計算格子に依存しない解析手法を確立する。 次に、PINNを用いた物性値の逆推定ではSi-C溶液内部の温度場が最低限必要であることが判明したため、溶液内部に温度を測定するためのプローブを設置することを考える。物性値を逆推定するには、得られた温度場データから溶液内部の移動現象を復元する必要がある。そのため、支配方程式に対する残差が大きい点にプローブを設置し、温度場の経時変化を訓練データに追加する。これを繰り返し、逆推定に必要な最少量のセンサー位置を求める。この手法により正確な物性値を得ることで、数値計算を高精度化する。 以上のように、PINNを用いた数値解析の高度化に取り組む。
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