2021 Fiscal Year Annual Research Report
大気圧プラズマを用いたX線結晶光学素子の超精密無歪み加工
Project/Area Number |
21J20502
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松村 正太郎 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 大気圧プラズマエッチング / 高圧プラズマ / X線結晶光学素子 / チャネルカット結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
極狭空間でのプラズマ安定生成手法として、最大圧力10気圧条件下におけるPlasma Chemical Vaporization Machining (PCVM) 加工に向け、各種強度計算をもとに高気圧プラズマ生成チャンバーの設計、製作を行った。製作したチャンバーにおいて、シリコンウエハを用いた基礎検討を行い、現状最大で5気圧条件下でのプラズマ生成を確認した。また、電解集中を有効に利用できる電極として極細ワイヤの採用を検討した。しかし、従来手法では電極の高速回転により反応生成物の効率的な排出を行っていたが、単純なワイヤ電極では積極的な生成物排出の機構がなく表面粗さの悪化が懸念されたため、電源にパルス変調を導入することを考案した。瞬間的なプラズマ生成を繰り返しプラズマオフ時間中に生成物を拡散により排出することを狙った。テストとして、直径約50μmのニッケルワイヤ電極と既存の1気圧まで加圧可能なチャンバーを用いて、シリコンウエハに対して加工特性評価を行ったところ、実際の条件に近い10μmの加工深さにおいて従来手法と遜色ない平滑性 (1 nm RMS以下) を得ることに成功した。この結果は、本研究の主目的である幅数100μm空間のプラズマ加工に対する有力な知見となるだけでなく、ワイヤ電極に基づくPCVMがチャネルカット結晶をはじめとするX線結晶光学素子の格子歪み除去手法として応用性の高い手法であることを示唆している。さらに、実際の結晶光学素子に対してワイヤ電極による加工を適用し、大型放射光施設にて結晶性評価実験を行ったところ、結晶性が改善し、高品質な反射面が創生されていることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、装置作製に関しては、おおむね順調に進行したと言える。各種強度計算をもとに高気圧プラズマ生成チャンバーの設計、製作を行っただけでなく、製作したチャンバーにおいて、現状最大で5気圧条件下でのプラズマ生成を確認したことは計画以上の進度である。しかし、装置関連で一点だけ、高周波導入のためのインピーダンス整合回路の作製など電源周りの製作が遅れている。新型コロナウイルス感染拡大、あるいは半導体不足の影響で部品や電源の納期が予定以上に遅れているためである。 電極形状の検討に関しては、試験的に直径50ミクロン、25ミクロンのニッケルワイヤ電極の利用の基礎検討と厚み75ミクロン程度のニッケル箔電極の利用の基礎検討を行った。厚み50ミクロンのニッケル箔電極に関しては、厚みが小さくなったことで思った以上に剛性が低下し、固定が困難であることが分かったが、引き続き調査を進めていく。こちらに関しても進捗はおおむね順調である。さらに並行してパルス変調の導入の検討を行った。この点に関しては、粗さの変化という新たな課題が発見されたため、計画とは異なるものの、非常に意義深い課題であるため、現在も検討を行っている。 さらに大型放射光施設における結晶性評価実験も無事に行うことができた。加工前後の反射X線プロファイルより、線状の結晶ダメージ・格子歪みの除去が確認された。また、加工前後の反射率の入射角依存性を表したグラフ(ロッキングカーブ曲線)からもピーク反射率の向上が確認された。これらは国内外の学会において既に発表済であり、学術誌への投稿の準備も進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の推進方策としては、まず引き続き装置製作を進める。チャンバー内のL(インダクタンス)およびC(キャパシタンス)の分布を概算し,高周波導入のためのインピーダンス整合回路を完成させ、電力等を厳密にパラメータとできるよう装置系を構築していく。さらに、電極-試料間ギャップを正確に観察するための観察光学系を製作する。のぞき窓は設置済みなため、試料位置を焦点として適切な焦点距離のレンズやカメラを購入し、十分な分解能による観察を可能にする。装置完成次第、昨年度に引き続きチャンバー内の雰囲気圧力とプラズマサイズの関係、あるいは電極-試料間ギャップとプラズマ点灯電力の関係などを詳細に調査していく。 使用する電極に関しては、昨年度の研究で極細ワイヤが候補として挙がった。そのため圧力条件にかかわらず本電極の特性、性能調査も並行して行っていく。昨年度既にワイヤ電極を用いた結晶加工のための実験をスタートさせており、今年度では本格的に実際の極狭空間を持つ結晶光学素子の加工に取り組む予定である。 また、もう一つの研究テーマであるX線自由電子レーザーのパルス幅伸長光学系の実現に向けても検討を行っていく。主に昨年度設計した光学系の性能向上について考えていく予定である。理化学研究所の研究者らと密に連絡を取り合いながら,光線追跡シミュレーション、波動光学シミュレーションなどの各種計算を元に実験結果を再現しながら性能の向上を目指す。具体的には、現状の光学系では集光光学系との併用が困難であることが昨年度の実験で判明したため、光学系の結晶形状を工夫することで集光光学系との併用が可能な光学系の構築を目指す。
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