2021 Fiscal Year Annual Research Report
モルフォ蝶のナノ構造発色に学ぶ新たな透過光材料の開発
Project/Area Number |
21J20516
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 和真 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | モルフォ蝶 / バイオミメティクス / ナノ構造 / 回折 / 光拡散 / 透過 / ディフューザー / 採光窓 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、(1) FDTD法(電磁場数値計算)を用いた構造設計、(2) リソグラフィとナノインプリントによる微細構造作製などを駆使し、「高透過率・広角拡散・波長分散なし」を並立するモルフォ型ディフューザーの実証を目指した。概要は以下の通りである。 (1) リソグラフィで作製可能な2次元ナノパターンを設計し、FDTD法を用いて構造最適化を行った。可視光全域で均一な光拡散を実現するため、短波長と長波長の光をそれぞれよく回折する2種類のナノパターンを設けた両面構成とし、回折格子の虹色を防ぐ乱雑さは分布関数により導入した。その結果、シミュレーション上で「透過率85%, 角度広がりFWHM 69°, 波長分散なし」が得られ、透過率と拡散性の双方で従来型(散乱に基づく)を凌駕することが分かった。 (2) 設計したナノパターンをフォトリソグラフィ(i線ステッパー)とドライエッチングによりSiウエハ上に作製し、UV硬化樹脂にナノインプリントすることで、モルフォ型ディフューザーの試作を行った。光学測定の結果、本試作品は「透過率85%, 角度広がりFWHM 66°, 波長分散なし」と設計値に近い性能を示し、また異方的な構造設計により、従来型では困難だった異方拡散も実現した。これらの結果は、モルフォ型ディフューザーの制御性の高さを示唆しており、今後様々なナノパターンを設計・作製することで、拡散角と方向性(等方・異方性)の制御が期待できる。 以上より、モルフォ型ディフューザーの実証に成功したと言える。しかし、透過拡散光の分布を観察すると、LED光に対しては異方的で滑らかな光拡散を確認できたものの、指向性の強いコリメート光では長方形構造の回折に起因する十字線が生じるなど、いくつか課題が残っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、モルフォ型ディフューザーの設計手法の構築、および試作によるデバイス実証を主な目的とした。回折広がりは光波長に依存するため、2次元のナノパターンで「波長分散なし」を実現するのは困難であったが、両面構成にするなど臨機応変に対応することで、早期に設計を終えることができた。また、試作品の実測値がシミュレーション結果とほぼ一致したことから、信頼性の高い設計手法を確立できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず構造設計を見直すことで現状の課題を解決しつつ、拡散性能のさらなる向上を図る。コリメート光下で生じた十字線は、長方形構造を格子状に並べたパターン設計に起因するため、長方形を格子状でなく乱雑に散りばめることで解消する。また、ナノパターンを最小寸法200-300 nm程度に微細化することで回折の効果を高め、「角度広がりFWHM≧80°」の実現を目指す。 さらに、モルフォ型ディフューザーの実用化に向けて種々の検討(拡散角の制御、自浄作用の付加、照明への応用など)を行う。
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Remarks |
朝日新聞、「明るい採光窓 青いチョウの羽ヒント」、2021年5月14日夕刊
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