2021 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内で高難度反応の触媒として働く人工金属酵素の創製
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21J20563
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
香川 佳之 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 人工金属酵素 / ヘムタンパク質 / ポルフィセン / C-H結合アミノ化反応 / 鉄 / ミオグロビン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、位置・立体選択的なC-H結合官能基化反応を促進する人工金属酵素の開発と細胞内反応への応用をめざしている。本年度はヘムタンパク質の補因子およびタンパク質構造の改変に取り組み、C-H結合アミノ化反応に高い活性を示す人工金属酵素の開発を実施した。まず人工補因子として、ポルフィリンの構造異性体であるポルフィセン骨格に注目し、鉄、コバルト、マンガン錯体を合成した。次にヘムタンパク質としてミオグロビンを選択し、ヘムを除去後、合成したこれらの金属ポルフィセン錯体を挿入することで、各種人工金属酵素を調製した。スルホニルアジドを基質として分子内C-H結合アミノ化反応を評価したところ、鉄ポルフィセン錯体を有するミオグロビンが最も高い触媒回転数を示し、ミオグロビンや鉄ポルフィセン錯体のみの場合よりも高収率で生成物を得た。速度論的評価により、鉄ポルフィセン錯体を有するミオグロビンは天然のミオグロビンに対して、約5倍の触媒活性を示すことを明らかとし、補因子の改変により触媒活性が抜本的に上昇したことを見出した。また、いくつかの基質の速度定数の対数値を結合解離エネルギーに対してプロットすると、負の傾きを有する直線関係となった。この結果は反応が水素原子引き抜き機構で進行していることを示唆している。さらに、変異導入をしたミオグロビンを用いて調製した人工金属酵素では、触媒回転数が3倍、エナンチオ選択性が40%向上することを見出した。現在、さらなる活性向上をめざし、ミオグロビン以外のヘムタンパク質を用いた人工金属酵素の開発に着手しており、今後はその変異体の調製と活性評価を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ヘムタンパク質の補因子であるヘムを人工補因子へと置換する再構成法により、ヘムタンパク質を基盤とした高難度反応を促進する人工金属酵素の開発およびその細胞内反応への応用を目的としている。本年度は金属ナイトレン種を経由するC-H結合アミノ化反応に着目し、再構成法を用いた人工金属酵素の調製とその反応評価を重点的に実施した。人工補因子として天然ヘムと類似の構造を有する各種金属(マンガン、鉄、コバルト)ポルフィセン錯体の合成および、ミオグロビン(nMb)のヘムを合成した金属ポルフィセン錯体への置換により、各種再構成ミオグロビンの調製を達成した。得られた再構成ミオグロビンを用いて、還元条件下における分子内C-H結合アミノ化反応への活性を評価し、鉄ポルフィセン錯体含有再構成ミオグロビン(rMb-FePc)が高い触媒回転数を示すことを見出した。鉄ポルフィセン錯体単体と比べてrMb-FePcはより高い触媒回転数を有することから、タンパク質構造と鉄ポルフィセン錯体が競合して働いていることが示唆された。rMb-FePcとnMbの速度論的評価の比較により、rMb-FePcがnMbと同等の基質親和性を示したが、触媒活性は約5倍に増加することを見出し、補因子改変による活性の向上を明らかとした。いくつかの基質の速度定数の対数値を結合解離エネルギーに対してプロットすると、負の傾きを有する直線関係となり、本反応が水素原子引き抜き機構で進行していることが示唆された。また、ミオグロビンのタンパク質構造に変異を導入した再構成ミオグロビンが触媒回転数およびエナンチオ選択性を向上させることを明らかにし、より疎水的な空孔が目的生成物への収率の向上に有効であることを見出した。さらに、鉄ポルフィセン錯体と他のヘムタンパク質の複合化と反応評価を予備的に実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本年度に見出した鉄ポルフィセン錯体を用い、C-H結合アミノ化反応に対して、より高活性かつ高エナンチオ選択性を示す人工金属酵素の開発に取り組む。タンパク質構造として、より深い疎水的空孔を有し、複数の変異導入が可能なシトクロムP450などを検討し、これらのタンパク質を遺伝子工学的手法により、タンパク質構造の改変を行う。タンパク質構造の改変の際には、計算化学的手法や機械学習を取り入ることも検討しており、効率的なタンパク質構造の最適化および合理的なタンパク質構造の設計手法の開発を実施する。具体的には、活性中心近傍のアミノ酸残基に着目し、複数の一重および多重変異体を遺伝子工学的手法により調製する。それぞれの変異体を用いてC-H結合アミノ化反応の活性評価を行い、触媒回転数およびエナンチオ選択性を実験的に求める。得られた網羅的なデータを目的変数として回帰モデルを構築し、高活性・高選択的な変異体のアミノ酸配列を予測する。予測されたアミノ酸配列を有する人工金属酵素の調製および評価を実際に行い、設計の妥当性を評価し、さらなる予測の高精度化を行う。また、回帰モデルのパラメータを解析や得られた変異体のX線結晶構造解析を実施することで、タンパク質構造と活性・選択性との相関関係に対する詳細な知見を得る。
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Research Products
(7 results)