2022 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内で高難度反応の触媒として働く人工金属酵素の創製
Project/Area Number |
21J20563
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
香川 佳之 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 人工金属酵素 / ヘムタンパク質 / ポルフィセン / C-H結合アミノ化反応 / 鉄錯体 / シトクロムP450 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、位置・立体選択的なC-H結合官能基化反応を促進する人工金属酵素の開発と細胞内反応への応用をめざしている。当該年度は人工金属酵素のタンパク質構造に着目し、人工補因子である鉄ポルフィセン錯体と種々のヘムタンパク質やその変異体と複合化し、C-H結合アミノ化反応の活性評価を実施した。まず、鉄ポルフィセン錯体と各種ヘムタンパク質のアポ体を複合化し、分子内C-H結合アミノ化反応に対する触媒活性を評価した。触媒回転数はタンパク質構造により変化し、シトクロムP450BM3 (BM3)と鉄ポルフィセン錯体を複合化した再構成シトクロムP450BM3 (rBM3)が高い触媒回転数を示した。次に、変異導入によるrBM3のタンパク質構造を改変し、高活性化を実施した。具体的には、補因子に配位しているシステインに着目し、19種類の一重変異体について、触媒反応を評価した。その結果、アスパラギン酸に置換した再構成体の変異体(rBM3*)が、rBM3に対して2倍高い触媒回転数を示した。次に、rBM3*の基質結合部位に存在する5つのアミノ酸残基に着目し、rBM3*一重変異体(95種類)とランダム変異導入により得られた多重変異体(約30種)を評価したところ、複数の変異体において、触媒回転数およびエナンチオ選択性が向上する結果を得た。さらに、より高活性な多重変異体の構築に向け、機械学習を使用した変異体の探索を実施した。得られた変異体データを初期データとし、(1)データを用いた機械学習モデルの構築、(2)機械学習による変異体ライブラリの設計、(3)実験による変異体の調製と触媒反応評価を実施した。得られる実験データを加えて、(1)-(3)のサイクルをさらに3回繰り返した。その結果、rBM3*に対して4倍高い触媒回転数を示す変異体の構築を達成した。上記の研究成果の一部は国内の学会にて発表し、高い評価を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ヘムタンパク質の補因子であるヘムを人工補因子へと置換する再構成法により、ヘムタンパク質を基盤とした高難度反応を促進する人工金属酵素の開発およびその細胞内反応への応用を目的としている。当該年度はタンパク質構造に着目し、昨年度に見出した鉄ポルフィセン錯体を有する人工金属酵素のタンパク質構造の改変・最適化を重点的に実施した。まず、昨年度までに報告した再構成ミオグロビンに加え、鉄ポルフィセン錯体とヘムタンパク質であるシトクロムP450BM3, CYP119のアポ体をそれぞれ複合化した再構成ヘムタンパク質を調製し、分子内C-H結合アミノ化反応に対する触媒活性を評価した。いずれの再構成体も再構成ミオグロビンよりも高い触媒回転数を示し、特にシトクロムP450BM3の再構成体(rBM3)が最も高い触媒回転数を示すことを見出した。次にrBM3のタンパク質構造に対して変異導入を行い、触媒回転数の向上を試みた。まず、補因子の鉄原子に配位しているシステインを異なるアミノ酸残基に置換した。側鎖にカルボン酸を有するアミノ酸残基が触媒回転数の向上に有効であることを見出し、特にアスパラギン酸に置換した再構成体の変異体(rBM3*)は、rBM3に対して2倍高い触媒回転数を示した。次に、rBM3*の基質結合部位に着目し、機械学習を用いたタンパク質構造の最適化を実施した。基質結合部位の5つのアミノ酸残基に着目し、rBM3*の一重変異体(95種類)と多重変異体(約30種類)を調製・反応評価を行った。得られた変異体のデータを用いて、機械学習による変異体の設計、実験による反応評価、データの追加のサイクルを複数回繰り返した。その結果、rBM3*に対して4倍高い触媒回転数を示す変異体の構築を達成した。上記のように高活性な人工金属酵素の開発を達成し、当初の研究計画に基づいておおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、高活性・高エナンチオ選択性を実現する人工金属酵素の開発およびその詳細の解析を実施する。さらに、得られた人工金属酵素の細胞内環境への応用を実施する。 まず、構築した機械学習を取り入れた変異体の最適化手法を用いて、高活性と高エナンチオ選択性を実現する人工金属酵素変異体の作成に取り組む。具体的には、これまでに得られた約200種類の変異体データをもとに触媒回転数およびエナンチオ選択性を目的変数とした機械学習モデルを構築し、ベイズ最適化を用いて24種類の変異体候補を選択する。選択された変異体の調製・評価を実験的に行い、得られたデータを機械学習に取り入れる。このサイクルを繰り返すことで、高活性かつ高選択的な人工金属酵素の探索を行う。 次に、得られた人工金属酵素に対し、実験と計算の双方から詳細を解析し、活性や選択性の向上の要因を明らかにする。X線結晶構造解析や分光電気化学測定等の各種分光法を用いて人工金属酵素の構造や物性の評価を実施する。結晶構造を基盤としたドッキングシミュレーションや分子動力学計算等の計算科学による評価にも着手する。実験と計算結果を統計的に解析し、活性および選択性の向上の要因の解明に取り組み、合理的設計手法の開発を試みる。 さらに人工金属酵素の細胞内での利用を検討する。まず、人工金属酵素を細胞内で構築する手法を開発する。具体的には、細胞表面にヘム獲得タンパク質を、細胞内にアポシトクロムP450をそれぞれ発現する組み換え大腸菌を作成し、細胞外部の金属錯体を取り込み、細胞内で人工金属酵素を調製する系を構築する。蛍光を示す亜鉛ポルフィセン錯体をモデル錯体として使用し、蛍光により細胞導入効率を評価する。構築した手法により、人工金属酵素を含む細胞を用いて反応を行い、細胞環境における活性を評価する。
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Research Products
(7 results)