2023 Fiscal Year Annual Research Report
レ枢機卿による「マザリナード」研究-テクストの社会性を対象とする学域横断研究-
Project/Area Number |
22KJ2078
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
涌井 萌子 大阪大学, 人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
|
Keywords | レ枢機卿 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)レ枢機卿のアカデミー活動の調査 アカデミー・フランセーズ設立前夜、1620年代までのパリでは盛んに文化的・学術的サークルが開催され、レ枢機卿も自邸で開催するほか、「デュピュイ兄弟のアカデミー」に参加していた。このサークル活動が、前年度に明らかにしたレ枢機卿の英雄像の特徴「聖職からの逸脱」と「世俗への接近」にどのように関係しているのか模索した。 前者に関しては、「デュピュイ兄弟のアカデミー」での交友が関わっていたと思われる。参加者の中には、家庭の都合で聖職につくことを強制され、表面的に敬虔さを取り繕う聖職者が多く存在したからである。 また、キリスト教の道徳規則に準じることよりも、生命や財産を守ることを優先する姿勢に関して、Natureという語が「政治法則よりも誤りを犯さない」判断基準として複数出てくることから、レ枢機卿と自然主義思想との接点を模索した。特に「アカデミー」に参加し、生命を守る自己保存の欲求を宗教道徳の遵守に優先させることを肯定したベルナルド・テレジオに注目し、レと接点がないか探したが、立証には至らなかった。 (2)マキャヴェリ『君主論』における理想的君主像と、レ枢機卿『フィエスク伯の陰謀』における理想的人物像との比較 慎重さよりも大胆さに価値を置く点や、必要であれば道徳的・宗教的に悪であることを行うべきという考えにおいてはマキャヴェリ『君主論』や同時代のマキャヴェリ理解との類似が見られた。一方で、マキャヴェリの「恐れられかつ慕われるべき」という点は異なっており、あくまで住民からの評判と好意には配慮する姿勢をとっている。この住民への配慮もあくまで支持者を増やすためであり、公益を装いつつ私益を追求する、レ枢機卿自身が作品内で批判している行為と同一視されかねないが、レ枢機卿の場合、公益と私益の結びつきを隠したり否定したりしない点が特徴であることがわかった。
|