2021 Fiscal Year Annual Research Report
咀嚼における小脳の重要性を、咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳投射の特性から解明する
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21J21394
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
堤 友美 大阪大学, 歯学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 咀嚼筋感覚 / 小脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
顎運動の制御に小脳機能の関与が考えられているが、その詳細な神経機構は不明であった。R3年度の研究では、咀嚼筋筋紡錘感覚に関わる小脳皮質部位を明らかにするため、咀嚼筋筋紡錘感覚が入力する三叉神経上核から小脳皮質への投射の解明を目指した。順行性神経回路トレーサーであるBDAを充填したガラス管電極を橋に刺入した後、咀嚼筋筋紡錘感覚の入力を電極から記録して三叉神経上核を同定し、そこにBDAを電気泳動にて注入した。その7日後にラットを深麻酔下でホルマリン溶液にて灌流固定して脳を摘出し、連続冠状断切片を作成後、BDAを組織反応にて呈色した。BDAが三叉神経上核内に限定して注入できた動物を選び、BDA標識神経終末の小脳皮質内の分布を観察した。両側の小脳皮質半球部、特に小脳皮質第VIの単小葉B (Sim B)、第VII小葉の第二脚 (Crus II)、第X小葉の片葉 (Flocculus) の3カ所に多数の標識軸索終末が見られた。これらの3カ所に、逆行性神経回路トレーサーであるCTbあるいはFGを充填したガラス管電極を刺入し、咀嚼筋筋紡錘感覚の入力を記録した。これらの記録部位に電気泳動にてトレーサーを注入した。標識細胞が両側の三叉神経上核に多数認められた。 次に、明らかになった咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳皮質投射部位と、体部の筋紡錘感覚の小脳皮質投射部位を比較するため、頸部と上肢の筋の筋紡錘感覚が入力する延髄の外側楔状束核にガラス管電極を刺入し、BDAを注入した。標識軸索終末は小脳皮質の第I-V、第VII-IX小葉の虫部に、同側優位に多く分布していた。 本結果によって、咀嚼筋筋紡錘感覚は三叉神経上核から小脳皮質のSim B、Crus II、Flocculusの3ヶ所に強く入力することが形態学的かつ電気生理学的に示された。また、咀嚼筋感覚は半球部、体部の筋紡錘感覚は虫部へという、局在性の投射を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳皮質投射部位の解明および小脳皮質に伝達された咀嚼筋感覚が関わる運動調節機構の解明を最終目標にしている。R3年度の研究目標は、この前半の咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳皮質投射部位と投射の特徴の解明であった。コロナウィルス禍の影響に加え、研究機関の改修工事によって実験スペースの削減と実験規模の縮小を強いられ、実験の進行スピードが少し落ちてしまった。 咀嚼筋筋紡錘感覚を伝達する三叉神経上核と、頸部と上肢の筋の筋紡錘感覚が入力する外側楔状束核へのトレーサー注入は、手技的に容易ではなかったが、実験を繰り返して何とか成功させることができた。しかし、得られたデータ、特に小脳皮質に認められたBDA標識軸索終末の解析に大変苦労した。例えば、小脳皮質は球体様で多くの深いシワ構造(小脳回)を持っているので、その連続冠状断切片上に認められたBDA標識終末の分布を、どの様に3次元的に再構築すれば第三者が理解し易いか、が大変難しい課題であった。指導研究者と議論を重ね、まず小脳表面の展開図を作成し、次に、BDA標識終末をその展開図の小脳表面に、小脳回の深いシワの浅深的な重なりを考慮しながら投影することで再構築した。これによって、頭部または体部の筋紡錘感覚の分布の特性と差異をよく表したBDA標識終末の分布図を作成することができた。 得られた全データをとりまとめ、図表を作成し終わったので、英語論文として発表すべく執筆作業に入った。また、この研究の一部は、2022年3月に開催された日本解剖学会にてWeb上で口頭で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究での目標である、咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳皮質投射部位の解明と、小脳皮質に伝達された咀嚼筋筋紡錘感覚の運動調節機構の解明うち、咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳皮質への投射部位はR3年度でほぼ解明できた。その結果は論文にまとめた(現在投稿中)。そこでR4年度は、R3年度に明らかになった咀嚼筋筋紡錘感覚が入力する小脳皮質の運動調節機構を解明するために必要な、咀嚼筋感覚が、小脳皮質に投射する軸索側枝を通って同時に伝達され得る小脳核の部位の探索を開始する。具体的には、R3年度の実験で得られた切片を観察し直して、咀嚼筋筋紡錘感覚が入力する三叉神経上核から小脳核への投射の様態を調べ直す。その後、明らかになる小脳核の部位から、咬筋神経の電気刺激と受動的開口に対する応答を記録して、その小脳核の部位に咀嚼筋筋紡錘感覚が入力することを明らかにする。さらに、その小脳核の部位に逆行性神経回路トレーサーを注入し、小脳核に投射する三叉神経上核ニューロンの存在を確認すると同時に、同小脳核に投射する小脳皮質ニューロンの分布を調べる。明らかになる小脳皮質ニューロンが、R3年度の実験で得られた、咀嚼筋筋紡錘感覚が入力する小脳皮質の3領野内に存在するか否かを調べる。存在するならば、三叉神経上核経由の咀嚼筋筋紡錘感覚が、小脳皮質経由で間接的に入力する小脳核は、三叉神経上核経由の咀嚼筋筋紡錘感覚を直接的にも入力する部位であることが明らかにできる。これによって、小脳による咀嚼筋筋紡錘感覚の運動調節機構の一端が解明できる。
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Research Products
(1 results)