2022 Fiscal Year Annual Research Report
連歌師宗祇を中心とした、室町中後期の源氏学に関する基礎的研究
Project/Area Number |
22J20290
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川渕 紗佳 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 『源氏物語』 / 享受 / 宗祇 / 中世源氏学 / 連歌師 / 注釈書 |
Outline of Annual Research Achievements |
『源氏物語』の享受資料を主な研究対象とし、主に連歌師宗祇の著作を中心に検討した。主として『雨夜談抄』、『種玉編次抄』を取り上げ、両作品から確認できる宗祇の『源氏物語』読解態度について考察した。また、両作品を中心に中世期に成立した『源氏物語』注釈書の伝本調査についても行い、以下のような成果を得た。 (1)『種玉編次抄』の注記から、『源氏物語』第三部の人物呼称の不審に対して、どのように処理し、解釈していたかに明らかにした。その結果、『種玉編次抄』は、以前の官職を意図的に使用していると処理していた。これらの解釈では、語り手を主体として捉えている上に、語り手と作者を同一視していたことが明らかになった。そして、この語り手と作者を結びつける考え方は『花鳥余情』や『雨夜談抄』など他の注釈書でも確認できることが明らかとなった。これらを踏まえて、呼称不審に対する源氏学の動向から、室町中期において物語解釈に作者が寄与する存在であったと明らかにした。また、『弄花抄』『一葉抄』『細流抄』など後発する注釈書が、『源氏物語』第三部の人物呼称の不審をどのように捉えていたかについても考察した。検討の結果、宗祇が提唱した解釈を引き継いでいる部分もあるが、そもそも登場人物の呼称に不審は生じていないとする新たな説も見られるようになった。これは依拠する本文に変化が生じたために発生したのではないかと考えている。 (2)九州大学附属図書館、安田女子大学図書館稲賀敬二文庫、金沢大学日本語学日本文学研究室で伝本調査を行った。特に、金沢大学日本語学日本文学研究室所蔵の『雨夜談抄(帚木別注)』は室町後期に書写された、宗祇自筆本の流れを汲む伝本であることが分かった。なお、これは現存する『雨夜談抄』の中で最も古い伝本であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】(1)については、宗祇の源氏学において初期の作品と位置づけられる『種玉編次抄』と、壮年期の作品である『雨夜談抄』の読解態度に着目し、宗祇の源氏学の特色を明らかにすることができた。今後は晩年期の作品である『源氏物語不審抄出』や、『源氏物語』を抄出した『紫塵愚抄』、貴人の求めによって作成された注釈書である『紫塵残幽』を扱う予定である。作品内の注記に着目し、宗祇の源氏学全体を見渡すことを目的とした作業は順調に進んでいる。さらに、弟子や交流のあった人物が著した注釈書(『弄花抄』『一葉抄』『細流抄』)についても視野に入れた考察も行っている。既に昨年度は研究発表も行っている。 【研究実績の概要】(2)については、宗祇の作品を中心に室町期に成立した注釈書の伝本調査を行えた。特に『雨夜談抄』については、先述した通り室町後期に書写された伝本を閲覧できた。この成果については、今年度中に論文化する予定である。今後も伝本調査については継続し、(1)の成果と併せてさらに考察を加えていく。 以上のことから、本研究は総合的におおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画については以下の通りである。 まず、宗祇の注釈書を中心に、室町中後期に成立した『源氏物語』の注釈書の伝本調査を継続して行う。これまで宗祇の注釈書については、未だ十分な伝本調査が行われていない。これは、宗祇の著作の重要性が正しく認識されていなかったからであると考えられる。 並行して、これまで検討できていなかった『源氏物語不審抄出』や『紫塵愚抄』、『紫塵残幽』の注記内容の検討も行う。『紫塵愚抄』は、明応期以前に宗祇が作成した『源氏物語』本文の抄出である。この作品を通読すれば、物語のおおまかな内容が分かるようになっているのが特徴である。和歌や連歌の手引きのために作成されたのではないかと考えられており、宗祇の連歌作品へ『源氏物語』が与えた影響を考える上でも重要である。『紫塵残幽』は、貴人の求めによって作成された注釈書で、作者は宗祇ではないかと想定されている。そのため、他の著作との関係性を明らかにして、宗祇の著作であるか否かを明らかにする必要がある。 今後、連歌師の『源氏物語』への表現摂取の実態を捉えるためにも、検討する必要性がある。伝本調査と注記内容の二つの面から、室町中後期の『源氏物語』享受史を明らかにすることを試みる。
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