2022 Fiscal Year Annual Research Report
酸化物熱電変換材料の転位による熱伝導低減機構の解明及びその制御指針の提案
Project/Area Number |
22J20564
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
関本 渉 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 酸化物 / 転位 / 熱伝導 / フォノン / 熱電変換 / 計算科学 / 分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、結晶・転位構造が比較的単純で理解が容易となるMgO等のモデル材料を対象に、実際の転位組織の影響の解析に先んじて孤立転位が熱伝導に与える影響を理論計算により詳らかに解明することを試みる。本年度では大別して以下の3点を行った。 1. 熱伝導特性と配位環境変化の関係を検討し、格子熱伝導度に対する縦波・横波等のフォノンモードそれぞれに対し、様々な孤立した静的な転位が原子レベルでのフォノン熱伝導に与える影響の解明を試みた。その結果、転位芯や弾性ひずみがそれぞれ異なるモードのフォノン伝導を抑制していることが明らかになった。これにより、転位による個別フォノンモードを散乱機構が示唆され、孤立転位周りの熱伝導に関する理解が深まった。 2. 実材料のような転位が入り乱れた組織の解析に先んじて、転位同士の相対的な位置関係のみを変化させた単純な転位組織をモデリングし、転位同士の相互作用、すなわち原子間結合の更なる歪みや転位の相対的な安定性等が格子熱伝導度に与える影響の解析を試みた。この際、転位同士の相対的な位置関係の変化による原子環境変化とフォノン特性の関係にも焦点を当てた。その結果、材料中に転位が均一に分布し転位による歪み場の分散が最大となる組織が熱伝導度を最も抑制することが明らかになった。このように、格子熱伝導度を低減するために有効な転位配置が明らかになりつつある。 3. より現実的な転位組織が格子熱伝導機構に与える影響の検討のために、キンク転位をモデリングし、キンク転位中の刃状・らせん各成分が格子熱伝導度に与える影響の解析を試みた。その結果、各成分の変化による局所構造の変化、あるいは結合ひずみに起因して格子熱伝導度が低減することが分かった。これにより、現実の転位組織が格子熱伝導度に与える具体的な影響の理解がより深まった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部進展が遅れた部分もあったが予想以上に進展した部分もあり、おおむね順調に進展している。以下に研究計画とその進捗状況を示す。 1. 「格子熱伝導度に対する縦波・横波等のフォノンモードそれぞれについて、原子レベルでの寄与の解析を試みる。」 転位芯や弾性ひずみが様々なフォノンモードの伝導をそれぞれ抑制していることを明らかにした。転位固有のフォノンモードが散乱機構を通じて孤立転位周りの熱伝導に与える関する現象的理解が深まり、計画以上に進展した。 2. 「塑性変形にて主に導入・活動する可動転位をモデリングし、熱伝導機構の解析を試みる。」 可動転位について、モデリングや系全体の熱伝導度計算等を行った。しかし、予定していた巨視的対流のように転位の移動に起因する熱輸送の定量評価のための計算コードの改良に新たな課題が見つかり、2年度目も継続して遂行する。 3. 「転位同士の相対的な位置関係のみを変化させた単純な転位組織をモデリングし、転位同士の相互作用が格子熱伝導度に与える影響の解析を試みる。」 転位同士の相対的な位置関係を変えたときの原子環境変化とフォノン特性への影響の関係を定量評価、材料中に転位が均一に分布し転位による歪み場の分散が最大となる組織が熱伝導度を最も抑制することが明らかになった。格子熱伝導度を低減するために有効な転位配置が明らかになりつつあり、概ね予定通りである。 4. 「より現実的な転位組織が格子熱伝導機構に与える影響を検討する。」 キンク転位をモデリングし、キンク転位中の刃状・らせん各成分が格子熱伝導度に与える影響を定量解析した。各成分の相対割合の変化に伴う構造のひずみに起因して格子熱伝導度が低減することが分かった。現実の転位組織が格子熱伝導度に与える影響の理解が計画以上に進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
達成できなかった転位の移動に起因する熱輸送の定量評価のため、独自の計算コードの改良を試みる。完成し次第、結晶・転位構造が比較的単純で理解が容易なMgO等のモデル材料を対象に、可動転位の熱伝導解析を試みる。 格子熱伝導度低減に有効な転位同士の相対位置やキンク転位が格子熱伝導度に与える影響が示された。加えて、その他の多様な転位組織についても、原子間結合の更なる歪みや転位の相対的な安定性等、転位同士の相互作用やそれによる転位芯構造の変化(部分転位や積層欠陥)が格子熱伝導機構に与える影響を解析する。また、転位同士のみならず他の格子欠陥(点欠陥や面欠陥)との相互作用にも踏み込み、それらが熱伝導機構に与える影響の解明も試みる。このような熱伝導に影響する各因子を可能な範囲で独立因子として切り分け定量的に解析することにより、学術的な目的である転位の新規熱伝導理論を検討をさらに進める。 また、熱電変換材料への応用を念頭に置くと、複数の酸化物候補材料で系統的に熱伝導解析を実施する必要がある。よって、複数の酸化物熱電変換材料で転位をモデリングし、同様の解析を試みる。MgOと似た類似した副格子を有する結晶構造を持つ物質(SrTiO3等)や結晶構造や転位構造が大きく異なる物質(ZnO等)について、MgO中転位にて蓄積された理解との共通点及び相違点を系統的に解明することで、熱電材料開発に向けた転位による熱伝導制御指針を検討する。さらに熱電変換材料の性能向上を転位により実現するためには電子特性への影響を明らかにする必要があるため、転位による熱伝導制御が特に有用と判断された物質について、いくつかの転位構造の電子特性の解析を試みる。この結果を元に、工学的目的である熱伝導と電子伝導の同時制御の方針を策定し、包括的な熱電材料設計指針を検討する。
|