2023 Fiscal Year Research-status Report
時が流れる感覚の神経基盤の解明:覚醒サルfMRIとニューロン活動計測による検討
Project/Area Number |
22KJ2205
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田中 澪士 大阪大学, 生命機能研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 時間知覚 / 逆再生動画 / 運動予測 / 認知神経科学 / 認知心理学 / MRI |
Outline of Annual Research Achievements |
人間は、「時間は一方向に流れる」という信念を持っているが、この感覚を脳がどのように生み出しているのかについては先行研究がほとんどない。本研究では、自然動画を通常再生で呈示した場合と、逆再生で呈示した場合の覚醒サルの脳活動を比較することで、"時が流れる感覚"を生み出す神経基盤の解明を目指している。 本計画では初年度に、覚醒サルfMRI計測の大幅な簡略化を目的とし、完全非侵襲で覚醒サルfMRI計測を行うための独自の頭部固定手法の確立した。本年度はまず、当該手法の実用性を徹底的に検討した。その成果をNeuroImage誌にて論文発表し、その後は国内外の複数研究者から技術指導の問い合わせを受けるなど、当該手法が注目を集めつつある。 "時が流れる感覚"の脳内表現を解明するために、本年度は、(1)呈示する自然動画を「生物の動き(Biological motion)」の動画に絞って再選定、(3)fMRI脳活動計測、(4)fMRIデータの解析を予定していた。本年度終了時点で、2頭のサルについて(1)から(4)までを完遂した。また、上記の実験によって得られた結果を踏まえ、追加実験として自然動画を上下反転させて呈示したときの脳活動計測も行なった。その結果、生物の動きに対して応答することが知られている上側頭溝において、逆再生または上下反転した動画を見ているときの脳活動が、通常再生で見ている時より弱いことがわかった。つまり、サル上側頭溝は時間的・空間的に正しい向き、すなわち生物学的に妥当な動きを優先的に検出していることが示唆された。これは、逆再生動画を見た時に生じる、時が流れる方向に関する強烈な違和感を生み出している脳機能の一部であると考えられる。 現在は、以上の結果の頑健性を検討するために、造影剤を使用した覚醒サルfMRI計測を実施している。また、最終年度には上記の結果を論文にまとめ発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
自然動画の通常再生/逆再生の条件だけでなく、通常再生/上下反転再生の条件でも脳活動計測を実施し、当初の計画では想定していなかった新たな成果を得られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本計画の最終年度は、(1)脳活動信号の品質向上のための造影剤を用いてMRI計測、(2)前年度と同様のMRIデータ解析、(3)MRIデータの高次な解析手法Multivariate Pattern Analysisを適用、(4)ニューロン活動計測、(5)ニューロン活動解析、(6)論文の執筆、(7)論文の投稿、を行う。本年度と同様、主に生物の動きに焦点を当てつつ、同研究室で行われたヒト研究の成果を元に、その他の要素が"時が流れる感覚"の生成に対して与える影響についても検討し、"時が流れる感覚"の脳内表現の全体像について解明を試みる。
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Causes of Carryover |
研究計画の変更により、次年度に造影剤を用いたMRI計測実験を行う計画とした。この実験において使用する造影剤の購入費用として、当初の本年度予算の一部を繰り越す必要が生じた。
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