2022 Fiscal Year Annual Research Report
GEFを介した情報統合による興奮系Rasの制御機構とその生理的意義の解明
Project/Area Number |
22J20932
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岩本 浩司 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 情報統合 / Ras / RasGEF / 興奮系 / 細胞運動 / シグナル伝達 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞運動は細胞内外の様々な情報を統合、処理することで制御される。細胞性粘菌ではこれらの情報がRasに集約することで下流の骨格系が制御され、細胞形態や運動方向が決まる。つまり、Ras活性化の分子メカニズムの理解は重要である。本研究では細胞内外の情報をもとに細胞性粘菌の持つ25種類のRasGEFを使い分けてRasの活性化を制御しているのかを明らかし、それらが最終的なアウトプットである細胞運動に与える影響を調べる。 これまでの研究において、25種類のRasGEFの過剰発現株を作製し、Ras-GTPのレポーターであるRBD-RFPを用いたイメージングによる自発的なRasの活性化に関わるRasGEFのスクリーニング手法を確立した。その結果、4種類のGEFがRasの自発的な活性化に関与することが示唆された。本年度は、この4種類のGEFが自発的なRasの活性化と細胞運動にどのように関わるのかを調べた。 まず、4種類のRasGEFの各ノックアウト株、ダブルノックアウト株を作製しRasの活性化と運動性を調べた。その結果、1種類のRasGEFを欠損した株においてRas活性の著しい低下と運動性の低下がみられた。このことからこのRasGEFはRasの活性化とそれによる細胞運動の駆動に不可欠であることが示唆された。また、4種類のRasGEFのうち3種類が細胞膜上に局在し、上記のGEFを含む2種類がRas-GTPと共局在し、それぞれがRasの活性化を時空間的に制御していることが明らかになった。一方で、これらのRasGEFは細胞外部からのcAMP刺激に応答したRasの活性化や走化性には関与しないことも明らかになった。今後は、外来情報であるcAMP刺激に依存的にRasを活性化する RasGEFを同定することで、情報統合を行う分子ネットワークの解明が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Rasの時空間ダイナミクス解析による、包括的なスクリーニング手法の開発により自発的なRasの活性化に関与するRasGEFの同定に成功した。この系はcAMP刺激の応答に関与するRasGEFの同定にも応用できる。さらに、本研究室で確立されている1分子イメージングにより、活性化したRasやそれに関わるRasGEFの分子ダイナミクスの解析も可能である。来年度は、これらの系を用いてRasGEFを介した情報統合によるRasの活性化制御メカニズムの理解に取り組んでいく。
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Strategy for Future Research Activity |
RasGEFの網羅的過剰発現株シリーズを利用したスクリーニングを行い、cAMPによるRasの活性化に関与するGEFcAMPを同定する。細胞性粘菌は一様なcAMP刺激を添加すると活性化したRasが細胞膜上に一過的に膜に移行する。そのため、GEFcAMPを過剰発現させた細胞では、cAMPに対する感受性が高まり、膜移行におけるcAMPの閾値濃度が低濃度側に移行すると考えられる。そこで、本研究では各RasGEFの過剰発現株に対して活性化型RasのレポーターであるRBD-RFPを導入し、1pMから10μMのcAMP刺激後に起こるRasの活性化ダイナミクスを解析し、cAMPの閾値濃度の変化を調べる。さらに、GEFcAMPはcAMP刺激に応答して、細胞膜上に移行するといった局在変化がみられる可能性がある。そのため、活性化Rasのダイナミクスと同時に各RasGEFのダイナミクスも観察する。これらの実験からGEFcAMPを同定する。しかしながら、GEFの過剰発現株を用いた実験では各GEFの発現量の違い等により予想されるデータが得られない可能性が考えられる。そのため、同時に各GEFのノックアウト株もCRISPR-Cas9を用いて作製し、GEFcAMPの同定を進める。さらに自発的なRasの活性化に関与するGEFについてもその詳細な分子メカニズムを明らかにしていく。まず、本研究室で確立されている1分子イメージングによりRas-GTPの拡散・解離を計測する。具体的には活性化したRasが蓄積した領域におけるRasのダイナミクスとそれが自発的なRasの活性化に関わるRasGEFの有無によりどのように変化するかを調べる。また、共免疫沈降を用いた相互作用分子の絞り込みを行う。これにより、RasGEFとRasがどのような分子ネットワークでどのようにそのダイナミクスが制御されているのかを明らかにする。
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