2022 Fiscal Year Annual Research Report
食リズムの乱れによる肥満改善に寄与する食品成分の探索と作用機構解明
Project/Area Number |
21J20240
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
廣直 賢勇 神戸大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 摂食行動 / 肥満 / 視床下部 / 食欲 / ポリフェノール / 嗜好性 / ミクログリア / 高脂肪食 |
Outline of Annual Research Achievements |
間脳の視床下部内側基底部(MBH)は、全身のエネルギー状態を感知し、摂食行動や代謝機能を調節する中枢器官ある。健常なマウスは、活動期である暗期を中心に摂餌し、非活動期である明期はあまり摂餌しないが、長鎖飽和脂肪酸に富む高脂肪食(HFD)を摂取したマウスでは、MBH領域内の食欲調節に関わる神経細胞の集合核である視床下部弓状核(ARC)に存在する、脳内免疫細胞ミクログリアの炎症応答が惹起し、昼夜問わず摂餌行動を起こすようになる。昨年度までに、クロダイズ種皮抽出物(BE)に含まれる成分のうち、シアニジン3-グルコシド(C3G)が、HFD摂取によるARCの炎症を抑制し、食リズムの乱れを是正することが判ったが、そのメカニズムは不明であった。今年度は、C3G摂取による長鎖飽和脂肪酸(パルミチン酸)誘導性のミクログリア炎症応答を抑制するメカニズムの解明に取組んだ。C3Gはそのままの形では吸収されにくく、様々な代謝物へと変換されて体内を循環する。それら代表的な代謝物を選定し、パルミチン酸と共に、マウス由来ミクログリア細胞に処理した結果、炎症応答を抑制する代謝物Aを見出した。一方、摂食行動の動機付けを制御する部位は、MBH以外にも、嗜好性(報酬・快楽)を司る中脳の腹側被蓋野(VTA)が存在する。HFDの摂取は、VTAが司る嗜好性へも影響を与えることが確認されており、特にマウスの非活動期である明期は、HFDへの嗜好性が上昇し、摂餌量の増加が認められることが報告されている。そこで、BE摂取による食リズムの是正効果に、嗜好性へ与える影響が関与するかを、HFDとBE混餌HFDを用いて、餌の選択嗜好性と1日あたりの総摂餌量から評価した。その結果、BEの食リズムの是正効果には、嗜好性の側面は関与しないことが示唆された。つまりBEの効果は、ARCにおける炎症抑制効果が中心的役割を果たすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、BEが「①HFD摂取による食リズムの乱れや体内時計の乱れを是正するのか」、「②人為的な食リズムの乱れが誘発する肥満を抑制するのか」、「③BEの単回投与による食行動に与える影響と投与タイミングによる効果の発現の違い」について検証を行う予定であった。しかし以下の理由から、本研究は項目①に焦点を当てて進めることに決定した。 まず項目①に関しては、本年度最も進展した研究項目である。昨年度から継続して、C3Gが視床下部炎症を抑制するメカニズムの解明に取組み、マウス由来ミクログリア細胞を用いた実験を通して、抗炎症効果を発揮するC3Gの主要代謝物Aを同定した。代謝物Aは、C3G代謝物の中で最も抗酸化活性が高い化合物であった。しかし、細胞内活性酸素種(ROS)を測定したところ、ROSとパルミチン酸誘導性のミクログリアの炎症応答には因果関係が確認できなかったため、代謝物Aは何らかの標的分子に作用し、抗炎症効果を発揮しているのではないかという仮説が浮上した。今後は代謝物Aの分子標的探索に焦点を当て、項目①を探求するという研究方針に固めた。 項目②の「給餌制限による人為的な食リズムの乱れの誘発による肥満」は、視床下部炎症を起点とする肥満とはメカニズムが異なることから、検証項目から省くことにした。 項目③の「BEの単回投与による食行動に与える影響と投与タイミングによる効果の発現の違い」に関しては、検証結果の再現性が得られず、検証を中断した。 以上の理由から、今後本研究では、抗炎症効果を有するC3Gの代謝物Aの作用メカニズムの究明に焦点を当てることに決定した。当初計画していた検証項目のうち2つを中断する結果となったが、その一方で、徐々にBEがHFD摂取に伴う視床下部炎症と肥満を抑制するメカニズムが明らかになりつつある。それらを総合的に評価して、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題の方策は、項目①の研究において見出した代謝物Aが、長鎖飽和脂肪酸が誘導するミクログリアの炎症応答を抑制する作用メカニズムの解明に重点的に取組む。さらに本年度の研究で関与が否定的であると示唆された、「HFDに対する嗜好性をBEは抑制するか」という命題に対する証拠を収集するために、VTAからのドーパミン投射に関して観察する予定である。 代謝物Aの標的分子の探索については、ビーズやビオチンなどで標識した修飾型代謝物Aを化学合成し、ミクログリア細胞内のタンパク質と相互作用させることで、標的分子を含むタンパク質群を分離する。さらに二次元電気泳動や質量分析を用いて、標的タンパク質の分子量から候補遺伝子を推定する。最終的には、細胞実験や動物実験において、ミクログリア特異的に標的遺伝子のノックダウンを実施し、代謝物Aの抗炎症効果が、見出した標的タンパク質依存的であるかを確認する。以上の手法に関しては、当研究室で技術を有しており、遺伝子組換え実験や動物実験に関しても承認を得ている為、すぐに実行可能である。 VTAにおいて生成されたドーパミンは、大脳半球の側坐核 (NAc) へと投射され、嗜好性を動機とした摂食行動を誘発する。このことから、VTAからNAcへのドーパミン投射の有無と、ドーパミン投射量を、質量分析装置により測定する。本検証で用いる質量分析装置は、当研究室で保有しているため、検証の準備が整い次第、実行可能である。 最終年度は以上の課題を遂行し、研究目標である「BEがHFD摂取による食リズムの乱れと肥満を抑制するメカニズムの解明」を達成する。
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Research Products
(5 results)