2022 Fiscal Year Annual Research Report
パルサーとGRBの詳細観測を可能にする原子核乾板時刻付与機構の開発
Project/Area Number |
21J20707
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小田 美由紀 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ガンマ線 / 原子核乾板 / 検出器開発 / 宇宙線 / 気球実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀塩フィルムの一種である原子核乾板は、荷電粒子の飛跡を高い空間分解能で記録するものの、現像するまで飛跡を蓄積し続けるため本来時間情報を持たない。多段シフターはその欠点を克服し、フィルムの位置関係を時間に従って意図的に変えることで到来時刻を得ることができる。 sub-GeV/GeVガンマ線の精密観測を目指す気球搭載型エマルション望遠鏡では、多段シフターを用いて記録した対生成事象に対しタイムスタンプを行っている。筆者は、エマルション望遠鏡での大口径面積、長時間、高時間分解能観測を実現する新型多段シフターの研究開発を進めている。 本年度は、2023年豪州気球実験での運用に向けた低温低圧下での動作確認を行った。長野県南信州飯田産業センターにある恒温槽を借りて、フィルム搭載試験を実施した。-40℃、300hPa下でも動作し続けること、±4℃/hの変化においても要求される駆動精度を満たすことを確認するとともに、複数枚のフィルムに記録された飛跡一つ一つを再構成することで、時間に対応する各フィルムの位置関係を得た。 恒温槽での試験をもとに気球実験で用いるオペレーションを決定した後、エマルション望遠鏡のくみ上げへと移った。名古屋大学理学研究科F研にて制作されたゴンドラに多段シフターを載せ、制御系の配線とJAXA側機器とのかみ合わせを行った。豪州へゴンドラを海上輸送した後は、本番フィルムの準備を行い空輸した。2月中旬に現地入りしてからは、ゴンドラに搭載された状態での最終動作試験を行い、輸送等によるメカニカルな駆動精度の劣化がないことを確認した。 年度末に本番フィルム、姿勢モニターやコンバータ等も搭載し、エマルション望遠鏡を完成させ、フライトレディを迎えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題において2023年に4月に行う気球実験は、新型コロナ蔓延の影響により2022年の3月から1年延期されたものである。 本年度は、気球実験での運用に向けた低温低圧環境試験と気球実験準備を行った。気球実験環境を模擬した圧力と温度変化において、新型シフターが要求される駆動精度を満たすことを確認するとともに、宇宙線飛跡の再構成も達成している。 これにより、シフターの実装方法やオペレーション、制御系を確立することができた。 10月には気球実験にむけた望遠鏡のくみ上げを開始し、輸送後現地にて最終仕上げと動作確認を行った。 したがって、新型シフターの気球実験での実践は1年の遅れを余儀なくされているものの、恒温槽を用いた環境試験により低温低圧下での性能評価は達成しており、4月のフライトに向けた準備も終えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、2023年気球実験の実施と解析、論文作成を行う。 気球実験は豪州のアリススプリングスにてJAXA宇宙研大気球グループ協力のもと行われる。4月下旬予定の放球までに、昨年度恒温槽を用いて実施した低温低圧環境試験のデータを用いて、解析ツールの構築を進める。フライト実施時には、多段シフターの運用とモニタリングを担う。 検出器を回収、帰国した後は、岐阜大学にて原子核乾板の現像処理を実施する。その後、名古屋大学F研にある自動飛跡読み取り装置を用いて、乾板に記録された飛跡をデジタルデータに変える。多段シフターに用いた乾板の面積は計25平米であり、全面積の読み取りには時間がかかるため、一部のデータのみを用いて先行的に解析を始める。飛翔中に蓄積された飛跡と準備中に地上で蓄積された飛跡とを分離していき、新型多段シフター初となるフライト飛跡での再構成を達成する。前回実験の6倍以上となる飛跡情報を処理するため、大面積処理を見据えた解析手法のベースラインを確立する。 各飛跡に到来時刻を付与した後は、ガンマ線検出部と望遠鏡の姿勢情報とを合わせて宇宙ガンマ線の到来方向を決定、Velaパルサーの結像を行う。結像した後、Velaパルサーからくるガンマ線の時間変化や、GRBの探索など時間情報を用いた解析を行う。2023年気球実験に関する準備、運用、解析結果をもとに新型多段シフターの最終性能評価を行い、他実験での運用法や効果などを検討する。
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Research Products
(4 results)