2022 Fiscal Year Annual Research Report
セイヨウミツバチのナビゲーション行動におけるcue選択アルゴリズムの解明
Project/Area Number |
22J11859
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Research Fellow |
小林 宜弘 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 昆虫 / 定位 / ランドマーク / 報酬系 / オクトパミン / 偏光 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物は様々な手掛かり(cue)に基づいたナビゲーションを行う。複数のcue を自身が置かれた環境と状況に応じて柔軟に使い分ける事例が報告されている一方、その複雑な情報処理メカニズムについては未解明な点が多い。 本研究では、飛行中のセイヨウミツバチの映像やトルクから飛行方向を推測し、それによってミツバチに与える偏光刺激とランドマーク刺激をフィードバック制御するVRフライトシミュレータを構築し、目的地に到達するためにこれらのcueをどのように取捨選択するのか、そのアルゴリズムの解明を目的としている。 今年度はまず、フライトシミュレータを用いてランドマーク刺激に基づくナビゲーション行動の解析を行った。トルク計に固定したミツバチに対して、正面に配置したPCモニターから種々のパターンや色をランドマーク刺激として提示するセットアップを作成し、トルク計の出力から個体の飛行方向をモニターするとともに、フィードバック制御によりランドマークの表示位置を調整するVRシステムを構築した。この装置を用いて、色の異なる2つのランドマークの一方と砂糖水を対提示する条件付けにより、条件付けに用いたランドマークへの有意な定位行動が発現すること、すなわち特定のランドマークに対する定位学習が成立することが明らかとなった。また、このランドマークに対する視覚定位学習の神経メカニズムを明らかにするため、ミツバチにおいて報酬学習に関与すると考えられているオクトパミンに関連する薬理学的実験を行ったところ、オクトパミン受容体阻害剤であるエピナスチンの脳内投与によって学習スコアが有意に低下した。このことから、視覚定位学習に脳内のオクトパミンを介するシグナル伝達系が関与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、本研究課題の遂行に必須である、ランドマークをVR提示できるフライトシミュレータの構築とランドマークに基づく視覚定位学習パラダイムの確立に成功した。また、このパラダイムを用いて薬理学的実験を行うことで、ランドマークに対する定位学習に脳内のオクトパミンシグナル伝達系が関与することを明らかとし、その成果を学会および原著論文として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きランドマークに対する定位学習について、性質の異なる様々なランドマーク刺激を用いてその学習効果を検証することで、視覚定位学習の性質について詳しく調べるとともに、種々のアンタゴニストやアゴニストを用いた薬理学的実験により、ミツバチのランドマークに基づくナビゲーション記憶における神経基盤の解明をすすめる。併せて、VRフライトシミュレータを偏光とランドマークを対提示できるように改良し、複数のcueを利用する定位行動の解析を目指す。
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