2022 Fiscal Year Annual Research Report
無腸動物にユニークな共生関係の確立と維持機構の解明
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22J13892
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
坂上 登亮 岡山大学, 環境生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 無腸動物 / 海産無脊椎動物 / 緑藻類 / 共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は無腸動物の共生メカニズム解明のために,日本固有種Praesagittifera naikaiensisと欧州固有種Symsagittifera roscoffensisを用いて,共生する緑藻類(共生藻)の分子系統解析,共生過程における動物体内の緑藻類の三次元的配置の解析,および無腸動物の新たな長期間飼育法の確立,を行った。 分子系統解析からP. naikaiensisの共生藻はTetraselmis属に分類され,近縁種S. roscoffensisの共生藻とは異なる種であることが分かった。また,P. naikaiensisおよびS. roscoffensisは,本来とは異なるTetraselmis種でも体内に共生させることが可能であることが認められた。一方で,各無腸動物に固有の緑藻類選択性が存在することが示唆された。現在,電子顕微鏡を用いた緑藻類の細胞構造解析を進めている。 未共生のP. naikaiensis幼若体と単離した緑藻類の共飼養により,緑藻類は動物と接触後,24時間以内に動物上皮細胞層を通過し,動物の細胞間隙に至ることが分かった。共生した緑藻類は細胞外被構造や眼点,鞭毛を失う。そのため共生関係の確立過程には,動物が緑藻類を取り込み,適度に消化し,体内に配置する,といったステージが存在することが示唆される。現在,各ステージに着目し,トランスクリプトーム解析を進めている。 無腸動物の長期飼育法を確立した。本法は対象生物の生息域の潮汐や海水の濁度などを考慮した光条件(明暗サイクル,光強度,光の波長)を設定できる。本法により実験室条件下でS. roscoffensisを高い生存率で長期的な飼育が可能であることを明らかにした。現在,本法をP. naikaiensisに適用し,解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Dr. Xavier Bailly(ソルボンヌ大学ロスコフ生物研究所,フランス)のもとで研究活動を行い(2022年8月~12月),無腸動物の長期飼育法を新たに確立した。P. naikaiensisやS. roscoffensisは共生藻の光合成産物に依存する独立栄養生物であるため,明光下での飼育が必要である。一方で,これら二種は自然海岸の潮間帯に生息し,潮汐リズムに合わせて砂上と砂中を移動するため,それを考慮した光条件を設定する必要があった。本飼育法の確立のために,海外研究機関で約5か月間,活動したが,当初の実験計画通り,進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
成体,共生前後の幼若体および緑藻類に着目し,電子顕微鏡解析およびトランスクリプトーム解析を開始している。動物だけでなく緑藻類の解析を同時に進めることで,共生関係の確立およびその維持のための機構解明を目指す。 共生した緑藻類は鞭毛や眼点,theca(細胞外被構造)を欠損することがこれまでに分かっている。これら細胞小器官は動物細胞内で消化されると予想しており,それを担う動物細胞を電子顕微鏡解析により同定する。共生関係の確立に関わる分子機構をトランスクリプトーム解析により明らかにする。得られたデータから候補遺伝子に関して,in situ hybridization解析により細胞局在を明らかにする。すでに一部遺伝子についてRNAプローブを作成し,解析を進めている。候補遺伝子について,当初着目する予定であった糖輸送体(促進拡散型グルコース輸送体,Na+共役型グルコース輸送体,sugars will eventually be exported transporter)に加えて,Macrophage migration inhibitory factor(MIF)についても解析を進めている。これは無腸動物の緑藻類の選択性や動物体内での緑藻類の維持に関与すると推察している。 また,2022年3月より2か月間,Dr. Xavier Bailly(ソルボンヌ大学ロスコフ生物研究所,フランス)を岡山大学に招聘し,一部研究内容に関して,指導を受ける。招聘後もオンラインミーティングなどを用いて密に連絡を取り合い,新たな共同研究も進めていく予定である。
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