2021 Fiscal Year Annual Research Report
瀬戸内海の貧栄養化と強光イベントの増加が植物プランクトンの異変をもたらす
Project/Area Number |
21J22797
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
矢野 諒子 広島大学, 統合生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 植物プランクトン / 瀬戸内海 / 貧栄養化 / 強光 / 光合成 / 赤潮 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の瀬戸内海では,海洋生態系の基礎生産者である植物プランクトンの種組成の変化が報告されている。本研究課題では,近年顕著な貧栄養化に加え,日射量増加や透明度上昇によってもたらされる強光イベントの増加に着目し,栄養塩欠乏と強光に対する植物プランクトンの種ごとの生理的応答の違いを調査した。 当該年度は,栄養塩制限のレベルを任意に設定できる連続培養系(ケモスタット培養)を作成し,瀬戸内海での出現動態が変化している代表的な種について培養実験を行った。パルス変調型蛍光法を用いて,栄養塩制限と強光に対する光合成応答を調べると,かつて瀬戸内海で優占していた珪藻Skeletonema属は,近年優占しているChaetoceros属よりも貧栄養と強光による光合成阻害が大きく,熱放散を示す非光化学消光(Non-photochemical quenching: NPQ)が高い値であっても光合成系を保護しきれていないことが示唆された。さらに,光合成阻害が顕著であったリン制限条件下で両種を混合した競合実験を行うと,強光下で培養することでSkeletonema属の衰退とChaetoceros属の優占が適光条件下よりも加速した。このことから,リン制限及び強光による複合的な影響が,実際のフィールドでも観察される珪藻の種遷移の要因の一つである可能性が示唆された。一方で,夏季にしばしば赤潮を形成する有害鞭毛藻Chattonella属に対しても同様の実験を行うと,珪藻2種と比較して,栄養塩制限と強光に耐性があることが示唆された。また,本種は強光防御機構であるNPQを誘導することで,上手く栄養塩制限及び強光という厳しい環境に馴化しているようにも見受けられた。本種のNPQ誘導機構に関しての報告はなかったため,RNA-seq解析を行い,栄養塩制限及び強光下で発現変動している遺伝子について調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,当該年度に連続培養系の専用培養装置を作成し,栄養塩レベルを任意に設定できる培養系を確立したことで,対象とした各植物プランクトン種について,窒素制限あるいはリン制限に対する光合成への影響を調査することができた。当初計画では,かつて瀬戸内海で優占していた珪藻Skeletonema属に関して,岡山大学の植木博士の協力のもと,強光防御機構として知られる非光化学消光(NPQ)に関わるLhcx遺伝子の発現解析を行う予定であったが,コロナ感染症の影響で共同研究先に訪問する機会が限られてしまい,十分に研究を進展させることができなかった。そこで,Skeletonema属の解析については次年度に行う予定に変更し,ラフィド藻Chattonella属についてのRNA-seq解析を,当該年度の研究費で行った。また,栄養塩枯渇と強光が顕著な夏の表層における植物プランクトンの現場環境に対する応答を調べるため,小型のメソコスムを作成し,現場環境下でのインキュベート行ったが,実験開始前に既にChattonella赤潮が発生しており,本来観察したかった珪藻と有害赤潮藻の現場での動態を追跡することができなかった。このメソコスム実験についても,来年度引き続き行う予定である。当該年度は1つの国際学会と3つの国内学会で発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に連続培養系を確立し,特定の栄養塩についての制限度合も比較できる実験系を確立できたため,この培養系を用いて,引き続き次年度も培養実験を行う予定である。次年度は,光条件を変えた培養実験を計画しており,パルス変調型蛍光光度計による光合成パラメーターの測定に加え,キサントフィルサイクル色素の定量及び,回収したRNAサンプルでのLhcx遺伝子発現を調査し,非光化学消光(NPQ)の誘導機構について中心的に実験を進める。Lhcx遺伝子に関しては,岡山大学の植木博士の協力のもと,Lhcx遺伝子の同定及び発現解析を行う。さらに,本年度に行った珪藻2種の競合実験に加えて,珪藻とラフィド藻の競合実験についても同様に行い,パルス変調型蛍光光度計(WATER-PAM, 顕微鏡PAM(現有))を用いて両種の光合成応答を測定予定である。
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