2021 Fiscal Year Annual Research Report
新規癌抑制因子PPM1Hホスファターゼの創薬への応用に向けた分子的基盤の創成
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21J22558
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
大澤 仁 愛媛大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質脱リン酸化酵素(プロテインホスファターゼ)PPM1Hは、マグネシウム・マンガン依存的にリン酸化セリン・スレオニンを脱リン酸化する。PPM1Hの低発現は、乳がんの抗がん剤耐性獲得や大腸がんの予後不良と正に相関することが報告されており、PPM1Hは新規のがん抑制因子として注目を集め始めている。しかし、PPM1Hの生化学的特性や機能については不明な点も多い。故に、これら点を明らかにすることは、乳がんや大腸がんに対する全く新しい治療法の確立に繋がりうる。一方、一部の肺がんにおいてはPPM1Hの高発現が予後不良と正に相関することが近年見出され、PPM1Hはがん種によってはがんを促進しうることが知られるようになった。そこで本研究では、PPM1Hの触媒機構および制御機構を解明することで、PPM1Hのがん抑制メカニズムについての理解を深めるとともに、未だ発見されていないPPM1Hの特異的阻害剤を同定することで、PPM1H阻害による新たな肺がん治療戦略の構築を試みる。令和3年度は、新たに発表された、PPM1Hの肺がん悪性化因子としての可能性に着目し、新規抗がん剤のシード化合物となりうる、PPM1Hを阻害する化合物の同定を試みた。長崎大学の研究グループと共同し、海洋微生物抽出物ライブラリーを用いたPPM1Hの特異的阻害剤の探索を行った。スクリーニングの結果、PPM1Hに対して阻害活性を示す微生物抽出物を、複数種類同定することに成功した。また、それらの中から特に活性を示した抽出物を分離することで、PPM1H阻害活性を持つ化合物を含む分離画分の取得に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、PPM1Hホスファターゼの触媒機構を解明することで、PPM1Hのがん抑制機構についての理解を深めることを目的の一つと設定していた。令和3年度は予定していた課題のうち、構造解析によるPPM1Hの触媒機構の解明を試みた。しかし、令和3年中に高精度タンパク質構造予測ソフトが登場し、他研究グループによるPPM1Hの結晶構造解析の報告が先になされた。それらの結果は、本研究における仮説を支持するものであったため、これ以上の分析は不要と判断した。以上の経緯により、本年は予め計画していた構造解析に進むことはなく、予定していた進捗を生むことができなかった。しかし、その代わりに、微生物抽出物からの阻害剤の探索において進捗を生むことができた。以上より、総合すると、おおむね順調であると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでPPM1Hホスファターゼはがん抑制因子として考えられていたため、本研究はPPM1Hホスファターゼのがん抑制機構の詳細の解明を主な目的としていた。しかし、最近になって、がん種によってはむしろ、PPM1Hががんの悪性化を促進する可能性が示唆された。そこで、PPM1Hとがんの関係をより包括的に理解するために、PPM1H阻害によるがん抑制法の検討を、当初の予定に追加して行うこととした。 令和3年度は予定していた構造解析を断念した代わりに、微生物抽出物からPPM1Hホスファターゼの特異的阻害剤の探索を進めることに成功した。今後は、抽出物に含まれる阻害活性を持つ化合物の同定、および化合物の機能評価を行う。また、PPM1Hホスファターゼのリン酸化によって結合状態が変化する、制御タンパク質の探索を進めることで、当初の目的であるPPM1Hのがん抑制メカニズムの詳細の解明にも尽力する。
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