2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J40172
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
富松 江梨佳 九州大学, 芸術工学研究院, 特別研究員(RPD) (20584668)
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Project Period (FY) |
2021-01-04 – 2024-03-31
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Keywords | 時間知覚 / 運動知覚 / 時間錯覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、時間的な体制化が様々な処理階層でなされているような刺激を用いて、時間知覚処理を順序立てて調べ、時空間的文脈を考慮した情報統合がどのようになされているかを明らかにする。本年度は、運動する物体の提示時間が静止した物体の提示時間よりも長く知覚されるという時間に関わる錯覚現象がどのような条件において生じるかを調べることによって、情報統合過程の一端を明らかにすることを試みた。物理的な運動なしで運動視を処理する脳部位を活性化させ得る刺激を提示し、認知的な負荷が大きな刺激であっても時間長の知覚を変化させうるかどうかについて検討した。認知的な動きを表す刺激を作成し、その刺激を1秒以下の時間で提示させて、その刺激における動きのスピードの評価および提示された時間長の見積もりをボタン押によって実験参加者に回答してもらった。その結果、認知的に負荷が大きいと考えられるような刺激を用いた場合であっても、動きのスピード感が速く見積もられる刺激の方が低く見積もられる刺激よりも長く提示されていたように感じられると評価された。また、刺激の形状を変えずに角度を変化させることによって動きのスピードが速く見積もられた場合にも時間長の長さが長く見積もられることがわかった。さらに、認知的に運動を表す線を刺激に付け加えた場合と、その線をマスクしたり形状を変化させたりすることによって運動の意味を表さないように操作した場合の刺激を提示し、提示時間長の知覚のされ方を調べたところ、認知的に線が運動を表す場合とそうでない場合に差は認められなかった。これらのことから、刺激図自体が認知的に速い運動を表すときに、刺激の提示時間の長さが長く見積もられる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、実験心理学的手法を用いて主観的時間長を調べ、時空間的文脈を考慮した情報統合がどのようになされるかを検討する。これまで、聴覚や視覚など、単一感覚内で時間間隔を成す単純な刺激に生じる主観的時間長について実験を行い、単純な時間知覚の生じ方について検討してきた。また、変化回数、移動感、および、認知的な運動が時間長の知覚に与える影響について検討した。特に、今年度は、認知的に負荷が大きいと考えられるような刺激を用いた場合であっても、運動の認知自体が時間長の見積りに影響を与えている可能性を示唆するデータが得られた。得られた結果は、時間知覚に関わる情報統合を考察するための貴重なデータとなると考えられる。今後、聴覚においても知覚的あるいは認知的運動と時間知覚の関連性を調べていくことによって、感覚の違いを超えた視点から時間知覚に関わる情報統合のしくみについて検討していくことも可能である。聴覚において時間的な変化を認知できうる刺激の作成など、次年度に向けて新たな実験刺激の作成や実験計画および予備実験も行い、着実に研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、時間知覚に関わる情報統合がどのようになされるかについて具体的な検討に入る。これまで得られた知見をもとに、想定した全ての処理段階において生じる時間知覚の仕組みを調べ、時間がどのように知覚されているのかを考察する。主観的時間長は、引き続き、心理物理学的手法を用いて測定する予定である。一連の実験において、刺激の適切な設定を検討し、実験プログラム作成などの実験準備を行う。準備ができ次第、実験を行い、データを収集する。実験の結果を論文にまとめ発表する。運動する物体の提示時間は静止物体よりも長く知覚されるが、自己運動知覚や認知的な運動に加え、背景の運動も提示時間長の知覚に影響を与えるかどうかを調べる実験を行う。まずは、同じ形状であっても、動きを認知できる刺激と、動きを認知しにくい刺激を用意し、それらの知覚的な提示時間長を測定し、比較する。これによって、刺激の形状や認知的な運動が、時間知覚に対してどのように影響を与えるかを考察する。上記の実験結果をもとに、刺激自体がどのように知覚・認知されるかということと、時間知覚とを切り分けたうえで、それらの処理の構造を考察していく。また、聴覚においても、運動知覚等、呈示刺激に付随した特性と、呈示時間長の知覚との関連性を調べていくことによって、視聴覚両面から時間知覚に関わる情報統合のしくみについて考察する。
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