2022 Fiscal Year Annual Research Report
構音方法の習得がことばの印象形成と学習に与える効果
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21J20359
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大竹 裕香 九州大学, 人間環境学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 音象徴 / オノマトペ / インアウト効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
「あ」と「い」はではどちらが大きな感じがするかと聞かれると,多くの人が「あ」と答えてしまう。このように,ことばの持つ音そのものが意味を伝達する現象は【音象徴】と呼ばれ,ことばの学習を促進することが指摘されている。しかし,その形成プロセスについては未だ明らかでない。本研究の目的は,発音時の筋運動感覚に着目し,音象徴の形成プロセスとことばの学習の促進プロセスを解明することである。 2022年度は,発音時の筋運動感覚がことばの印象に影響すると考えられる例である「インアウト効果」のプロセス解明をメインテーマとして定め,その基盤となる実験を行った。並行して,オノマトペに関する研究のレビューを引き続き行い,また,2021年度の研究成果である視聴覚間協応のプロセスを検討する研究の論文執筆を行った。 インアウト効果とは,単語を構成する子音の調音位置が前後に移動することで感覚印象が変化するという現象である。この現象は先行研究で繰り返し再現されてきたものの,アルファベット圏以外での検討が少ない。そこで2022年度は,予備調査を行って日本語版の刺激を作成し,日本語話者においてインアウト効果がみられるのかどうか検討を行った。その結果,日本語話者においてもインアウト効果は再現された。そこで,インアウト効果の生起メカニズムを探るべく,先行研究を精査しながら今後の実験計画を立案した。 このように,本年度は実験を通して得た新たな知見を基に,音象徴の形成プロセスをより精緻化するためのロードマップを練った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,発音時の筋運動感覚がことばの印象をどう形作るのか検討するため,日本語話者にとって未知の言語音である中国語の音声をとりあげ,感覚印象の日中比較を試みようとした。しかし,異なる母語話者における特定の言語音に対するイメージの共通性や差異をどのように測定するかを具体的に検討する中で,さまざまな交絡要素の可能性が考えられ,より慎重に検討を行うこととなった。そこで本年度は実験計画を練り直し,発音時の筋運動感覚が感覚印象に影響する現象として,新たに「インアウト効果」に着目した。インアウト効果とは,単語を構成する子音の調音位置が内向きに移動する単語のほうが,外向きに移動する単語よりも好まれるという現象である。アルファベット圏で近年精力的に検討されてきたこの現象について探るべく,本年度は予備調査を行って日本語版の刺激を作成し,日本語話者に対して実験を行った。その結果,日本語話者においてもインアウト効果は生起するという結果が得られた(研究成果は日本心理学会第86回大会にて発表した)。そこで,発音時の筋運動感覚がどのようにことばのイメージを形成するのか,インアウト効果の生起メカニズムを追いながら明らかにしていくために,日本語オノマトペにおけるインアウト効果の検討など,後続実験の道筋を立てた。 また,昨年度より引き続きオノマトペに関する文献レビューを行うとともに,2021年度より取り組んでいる視聴覚間協応のプロセスに関する研究の論文を執筆した。以上のように,ターゲットとするテーマの設定と基盤的実験に加え,レビュー論文の執筆と関連分野の論文執筆を通し,博士論文の具体的構想を練っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,音象徴の形成プロセスにおける発音時の筋運動感覚の役割の解明に向け,インアウト効果の生起メカニズムを追う実験を行う。これまでインアウト効果の生起プロセスについては,前方から後方へ動く単語は体に取り込む(食べる)動きを,後方から前方へ動く単語は吐き出す動きを模倣することとなり,そのため単語の好ましさが変化するという説や,発音のしやすさ(流暢性や,前方子音への選好)などが影響しているといった説が検討されてきた。しかし,現象の頑健さにも関わらず,いずれの説明も決定的とは言えない状況にある。2022年度の実験で日本語でもインアウト効果が頑健に生起することが確認されたことを踏まえ,日本語独自の視点として,動作をそのまま映したように感じられることば―オノマトペをターゲットに検討していく。具体的には,たとえば,「食べる」を表すオノマトペには,内向き単語が多いのかどうかや,「食べる」「吐く」以外の動作のオノマトペではどうなのかを比較検討することなどを通し,内向き・外向きという筋運動がどうやって意味に影響しているのか,より具体的に迫っていく。また,ことばの発音や読みのスピードを実際に測定したり,まだ発音が流暢でない幼児ではインアウト効果がみられるのかどうかなど,多角的な手法を組み合わせて検討していく。これらの実験に加え,オノマトペについてのレビュー論文を完成させて理論的理解を深めたうえで,博士論文を執筆する。
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Research Products
(1 results)