2022 Fiscal Year Annual Research Report
生体分子の直接高偏極化を可能にするtriplet-DNP材料の開発
Project/Area Number |
21J21996
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
折橋 佳奈 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 光励起三重項 / 動的核偏極(DNP) / 金属有機構造体(MOF) / 核磁気共鳴(NMR) / 磁気共鳴イメージング(MRI) |
Outline of Annual Research Achievements |
採用者は、電子スピンの高偏極状態を核スピンに移行し、NMR や MRI の検出感度を向上させる動的核偏極法(DNP)の研究において、生体内での分子プローブの直接観測を志向した多孔性 DNP 材料の開発に取り組んできた。数あるDNPの手法の中でも、光励起三重項を利用する動的核偏極法(triplet-DNP)は、光励起によって自動的に生成する非熱平衡状態の電子偏極を核へと移行する手法であり、室温かつ低磁場で核の高偏極化を達成することが可能であることから、その応用に注目が集まっている。一方で、triplet-DNPには三重項偏極を生成する偏極源が凝集すると、配向の異なる2つの偏極源間を三重項励起子が行き来することにより、その電子偏極が即座に失われ DNP 効率が著しく低下するという問題があり、そのためこれまでのtriplet-DNP系は偏極源の導入量が低濃度に限定されていた。したがって偏極源が高濃度に存在する系に関する報告は未だなく、また、三重項励起子が偏極を保ったまま拡散する現象が周辺核スピンにどのような影響を及ぼすかに関する知見は全くなかった。 採用者は偏極源の配向制御によって密な集積状態においても電子偏極の緩和を抑制できるのではないかと考え、偏極源がピラー部位として配位するピラードレイヤー型の MOF を設計・合成し、この MOF において三重項電子偏極の緩和が抑制されることを明らかにした。昨年度は、核偏極の緩和を抑制し、かつ偏極源の配向を制御できる材料として二次元ネットワーク構造がπスタックによって積みあがった構造を持つ水素結合性の有機フレームワーク(HOF)に注目し、 HOF における triplet-DNP 実験のデモンストレーションを初めて行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、偏極源の向きが制御された MOF 中において観測されたラジカル偏極に着目し、分光測定と ESR 測定による、ラジカルおよびラジカル偏極の生成機構の解明に取り組んだ。偏極源の向きが制御された MOF の時間分解 ESR 測定の結果、triplet 偏極に由来するスペクトルに加え、スペクトルの中央付近に強い Emission のピークが得られた。パルス ESR 測定により、この Emission のピークはラジカル偏極に由来し、このラジカル種のスピン緩和時間は 274 マイクロ秒 と非常に長いことが明らかとなった。時間分解 ESR の結果より、triplet 偏極由来の信号の減衰とラジカル偏極由来の信号の立ち上がりの時定数がほぼ一致したことから、偏極が triplet からラジカルへ移行していることが示唆された。さらに、光励起後の MOF の CW-ESR 測定および化学酸化した MOF と光励起後の MOF の吸収スペクトルより、ラジカル種は光励起後の偏極源の電荷分離により生じていることが示唆された。光励起による長寿命なラジカル偏極生成法の確立は、DNP 材料への応用のみならず、量子センシングなどへの応用にも繋がると考えられる。以上のことから、本研究の目的である生体内での分子プローブの直接観測につながる多孔性 DNP 材料の開発に向け、概ね順調に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで達成してきた三重項電子偏極の緩和の抑制と、核偏極緩和時間の長い多孔性結晶の設計指針の確立に加え、偏極源が密に存在する系において光励起による長寿命なラジカル偏極の生成が確認された。しかし、偏極源が密に存在している系における光励起状態に関する報告は少なく、その詳細は未だ明らかになっていない。偏極源の距離や配向の異なる結晶を種々合成し、時間分解 ESR やパルス ESR の観測などによってその生成過程や緩和機構についても検討を行い、偏極源が密に存在する固体材料における光励起による長寿命なラジカル偏極生成についてさらに知見を深めていく。また、光励起で生成するラジカル偏極を用いた DNP の実現に向け、核偏極緩和が抑制され、偏極源が密に配向した多孔性材料の開発を目指す。加えて、この光励起ラジカル偏極の量子技術への応用についても検討していく。以上を踏まえ、多孔性結晶における DNP の効率化に向けた最適な偏極源の配置についての設計指針を確立する。
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