2022 Fiscal Year Annual Research Report
強電場下におけるセラミックスの点欠陥構造と高温物質輸送に関する研究
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22J11973
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
南部 洸太 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 強電場 / 焼結 / 拡散 / 塑性変形 / ジルコニア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は(1)「交流電場を用いたイットリア安定化正方晶ジルコニア(TZP)の低温・高速接合」と、(2)「強電場印加によるTZPの塑性変形能向上」、そして(3)「イットリアの化学結合および結晶構造に及ぼす強電場の影響」の3項目について研究を実施した。 (1)では、TZPに対して、交流電界を用いたフラッシュ接合実験を実施した。炉内温度1000℃で60 mA・mm-2の交流電界を80秒間印加することにより、母材の92%の曲げ強度を持つ接合体の作成に成功した。また、入力エネルギー密度と電流の両方が、セラミックスの接合を実現する重要な要素であることがわかった。この結果は、J. Am. Ceram. Soc. 106, 2073に掲載されている。 (2)では、緻密で微細なTZPの高温塑性変形に及ぼす電界効果を明らかにするために、フラッシュ条件下で高温三点曲げ試験を実施した。ジュール加熱による試料温度上昇の影響を差し引いても,フラッシュの発現によりTZPの高温塑性流動を著しく促進することが示された。塑性流動に対する非熱的な効果は、高温塑性流動の活性化エネルギーが低下したことに起因している。この結果は、J. Eur. Ceram. Soc. 42, 5045に掲載されている。 (3)では、X線光電子分光法とX線回折法を用いて、直流または交流電場下でフラッシュ焼結して作製したイットリア多結晶体の化学結合状態および結晶構造について調査した。その結果、Y-3d結合エネルギーは、DCフラッシュ焼結、ACフラッシュ焼結ともに、極性に関係なく保持時間の増加とともに減少したことから、電極に依存しない酸素空孔がフラッシュ焼結で導入されたことがわかった。このような点欠陥の生成は、フラッシュ焼結時の原子拡散を促進すると考えられる。この結果は、J. Eur. Ceram. Soc. 43, 3516に掲載されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、強電場を利用した新たなセラミックスの低温・高速緻密化技術であるフラッシュ焼結について、強電場下での高速緻密化メカニズム解明を目的とする。より具体的には、分光分析から強電場下で導入される点欠陥構造を特定すると共に、拡散現象の速度論的解析と合わせて、その緻密化メカニズムを解明し、点欠陥構造の制御に基づく新規セラミックス創製の指針を得ることを目標にしている。これまでに、分光分析手法によって極性に依存しない正電荷の酸素欠陥がフラッシュ焼結で導入されたことを明らかにした。また、強電場下では従来よりもはるかに低温・短時間での接合や塑性変形能の大幅な向上が実現し、これは電場下で生成した点欠陥が原子拡散を促進したことに起因した。特に、強電場下でのイットリア安定化正方晶ジルコニアの3点曲げ試験にて見られた、高温塑性流動における活性化エネルギーが低下は、強電場により生成した点欠陥が物質輸送を促進したという事実を支持する結果である。以上のことから、”分光分析を用いた強電場下で生成する点欠陥の特定”と”強電場下での拡散現象の速度論的解析”という本研究の目的達成に向けて、着実に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
カチオンの拡散速度に及ぼす点欠陥生成による非熱的効果を明らかに必要がある。そこで、拡散対実験によって拡散係数および活性化エネルギーの計測を行い、強電場が及ぼす拡散現象への影響を定量的に明らかにする。ZrO2およびHfO2をモデル材料として、多晶緻密体同士を拡散接合して拡散対とすることで、高温下でZr4+およびHf4+カチオンの相互拡散が起きる。温度と熱処理時間をパラメータとし、各カチオンの濃度分布をエネルギー分散型分光法(EDS)で計測することで、速度論的にカチオンの拡散係数および活性化エネルギーが得られる。この拡散データの電場・電流依存性を調査し、強電場下での物質輸送の素過程に迫る。
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