2022 Fiscal Year Annual Research Report
生体膜内における側方枯渇効果によるタンパク質2次元結晶相の形成
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22J13118
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
須田 慶樹 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 2次元枯渇効果 / バクテリオロドプシン結晶形成 / 脂質分子枯渇効果 / 膜貫通型タンパク質間相互作用 / 生体膜 / 脂質分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度はバクテリオロドプシン(bR)の脂質分子の枯渇効果による結晶形成について理論研究を行った。bRは膜貫通型タンパク質の1種で、生体膜で自発的に2次元結晶を形成する。この結晶形成の駆動力は明らかにされていない。例えば水素結合やイオン結合の形成が考えられるが、構造解析からはこれらの結合は確認されていない。そこで脂質分子の配置エントロピー駆動でbR間に実効引力が生じ、結晶形成が起こるのではないかと考えた。私はbR結晶形成駆動力を明らかにすることにより、他の膜貫通型タンパク質についても膜の中でどのように相互作用し合っているのか解明する糸口になると考え研究を実施した。 昨年度の研究目的は修正AOポテンシャルの妥当性の評価である。修正AOポテンシャルについて説明する。脂質分子の枯渇効果によって生じるbR間実効ポテンシャルを計算する手段として、古くから、AOポテンシャルがある。しかし、AOポテンシャルは脂質を理想気体として近似しており、脂質分子間の斥力の効果が取り入れられていないという欠点がある。そこで脂質間斥力の効果を取り込んだ修正AOポテンシャルを考案した。熱力学摂動理論と修正AOポテンシャルを用いてヘルムホルツ自由エネルギーを計算し、共通接線法からbRの相図を得た。本研究で用いた理論とは、その枠組みが異なるfree volume theoryから求めたbRの相図と比較した。その結果、両者はとても良い一致を示した。このことから、修正AOポテンシャルの妥当性を示すことができた。 更に、AOポテンシャルから計算されたbRの相図と修正AOポテンシャルから計算された相図を比較した。修正AOポテンシャルから求められた相図の方が低い脂質充填率でbRが結晶形成を開始し、実験結果と半定量的に一致した。このことは、脂質分子間の斥力がbR間実効相互作用を強め、結晶形成を促進していることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は修正AOポテンシャルの妥当性を明らかにすることを目標にしていた。研究実績の概要で説明した通り、修正AOポテンシャルからbRの相図を計算しfree volume theory から求めた相図と比較した。その結果、両者は良い一致を示したので修正AOポテンシャルの妥当性を示すことができたと考えている、現在、この結果をプレプリントサーバー arXivに発表している。また、査読付き学術雑誌にも投稿中であり、概ね順調に進展していると考えている。 また、目標としていた、剛体円盤2成分系のevent chain モンテカルロシミュレーションのプログラムも完成させた。現在、脂質浴の脂質充填率が0.1, 0.2, 0.3の場合についてシミュレーションを行った。それぞれの脂質よく充填率で、バクテリオロドプシン(bR)の充填率と圧力の関係を調べたところ、ファンデルワールスループを得られた。このループに等面積則を適用し、bRの相図を得た。その結果、流体-固体2相共存領域を求めることができた。また、理論からは予測できなかった、固体-固体の相転移を見つけることができた。この計算をするにあたり、九州大学のスーパーコンピューターを利用し、並列計算を用いて、計算時間を短縮することができた。つまり、シミュレーションプログラムを完成させることができ、研究結果も出てきている。また、スーパーコンピューターの使い方にも習熟した。このことから昨年度の研究計画に沿って順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
理論から求めたバクテリオロドプシン(bR)の相図の妥当性を調べるためにシミュレーションから相図を求める。相図を求める方法としてevent chain モンテカルロシミュレーションを行う。脂質浴中脂質充填率を一定にして、脂質分子に対して開いた系でbR-脂質2成分系をシミュレーションする。脂質分子とbRは剛体円盤としてモデル化する。圧力とbR充填率の関係を調べ、ファンデルワールスループを計算し相図を求める。すでに、計算プログラムは完成しており、脂質浴充填率0.1, 0.2, 0.3の場合の相図は求めている。より細胞膜に近い脂質充填率0.4, 0.5の場合の相図を求める。シミュレーションから得られた相図と理論から求めた相図を比較し、その妥当性を検証する。 また、生体膜が脂質2重層であることのbR間に対する実効相互作用の影響を調べる。脂質が2重層であることで、脂質の数密度が2倍になるので、枯渇効果による実効引力が2倍になる可能性がある。調べる方法として、脂質を2グループに分ける。同じグループの脂質同士は相互作用するが、違うグループは相互作用しない。このようにして、脂質2重層をモデル化できる。脂質2重層モデルと単層モデルでbR間動径分布関数を調べる。動径分布関数から実効ポテンシャルを計算することができる。二つのモデルで実効ポテンシャルを比較し、2重層の効果を確認する。
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