2021 Fiscal Year Annual Research Report
近赤外光でフォトクロミズムを示すジアリールエテンの開発
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21J22524
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
碇子 壱成 熊本大学, 自然科学教育部, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フォトクロミズム / ジアリールエテン / 可視光応答 / 三重項 / 蛍光 / スイッチング |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、オプトジェネティクス(光遺伝学)や超解像蛍光イメージング技術の分野において、フォトクロミック分子の重要性が再認識され、その応用に向けた研究が活発化している。しかしながら、従来のフォトクロミック分子は、少なくとも片方の光反応に紫外光を必要とするため、生体へのダメージや光透過性の低さの問題が指摘されている。 そのような中、申請者はペリレンビスイミド(PBI)を連結したジアリールエテン(DAE)誘導体がPBIユニットのみが吸収する可視域の光を照射することで、その光を吸収しないDAEユニットが光閉環反応を示すことを見出した。この光反応はこれまでに報告されているメカニズムでは説明できないことが明らかとなっている。 1年目ではペリレンビスイミド(PBI)ユニットとジアリールエテン(DAE)ユニットを連結するスペーサーの種類が異なる複数の分子を合成し、その光反応性を評価した。その結果、スペーサーユニットの違いによって明らかに可視光応答性が異なることが認められた。特に、スペーサーにカルボニル基を用いた分子において、波長532 nmのレーザー光を照射した際の光定常状態において、光反応転換率が向上することが認められた。詳細な測定を行った結果、スペーサーにケトンを用いたことによる光反応転換率が向上は、可視光照射における閉環体から開環体へと戻る光開環反応の速度が低下したためではなく、光閉環反応の量子収率の増大に起因することが明らかとなった。また、エネルギー準位の理論計算の結果、PBIの最低励起一重項状態のエネルギーレベルよりもDAEの三重項状態がエネルギー的に低いことが明らかとなっており、我々の提案するメカニズムを支持する結果が得られたものと考えている。現在、様々な蛍光色素およびDAEユニットを用い、申請者の提案するメカニズムの一般性を検証すると同時に、可視光応答性の効率向上を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本学術振興会特別研究員(DC1)として、これまでに報告されている例では説明できない特異な光反応のメカニズム解明を目指し、最終的には近赤外光で可逆的な光反応を示すジアリールエテン(DAE)誘導体の分子設計指針を確立することを目標に研究にとり組んでいる。 この目標に向けて本年度は、ジアリールエテンユニットとペリレンビスイミド(PBI)ユニットとを連結するスペーサーが可視光応答性に及ぼす影響を調べることを目的とした。その結果、スペーサーユニットの違いによって明らかに可視光応答性が異なることが認められた。この結果は、目標である近赤外光でフォトクロミズムを示すジアリールエテン分子を設計する上での基盤になるものと考えている。現在、この知見を基に、より効率が高く、長波長の光で光閉環反応を示すジアリールエテン分子の設計・合成を行っている。 初年度の段階で、目的に対する課題を遂行し、その解決に向けた新しい取り組みをスタートできていることから、おおむね順調に研究が進展しているものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の研究において明らかになった知見に基づき、様々な蛍光ユニットとジアリールエテンユニット(DAE) を連結させた化合物を設計・合成し、より可視光閉環反応の量子収率の高い分子の開発を試みる。蛍光ユニットには、現在の特異な光反応を示す分子で用いているペリレンビスイミド(PBI)に近い吸収発光特性を示す分子を用いる。比較的大きな光閉環反応量子収率を示す分子が合成できた場合には、過渡吸収の測定によって光反応のダイナミクスの追跡を試みる。同時に、理論計算の結果と実験結果を照査することで申請者の提案するメカニズムの妥当性の検証も行い、メカニズムを確固たるものとする。 また、本年度は、現在より長波長の光で閉環反応を示す分子の開発にも取り組む。蛍光ユニットにはPBI骨格をベースとして吸収波長の長波長化した分子の合成を行う。 この際にも、これまでに得られている知見を駆使して、蛍光ユニットの最低励起一重項状態のエネルギーレベルとDAEの三重項のエネルギーレベルがマッチするような分子の設計を理論計算から行い、各ユニットを連結することで、長波長の光で光閉環反応を示す分子の開発を試みる。 確立したメカニズムおよび分子設計指針から、近赤外光で光異性化反応を示す蛍光性フォトクロミック化合物の設計・合成を試みる。合成した分子の光反応転換率、光反応量子収率などの測定を行い、スイッチング分子としての性能を評価する。研究がスムーズに進行した場合は、近赤外蛍光イメージングなどへの応用も検討する。
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Research Products
(2 results)