2022 Fiscal Year Annual Research Report
降雨後の土砂災害に対する警報解除に向けた地表面蒸発量推測手法の開発
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22J14018
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
軸屋 雄太 鹿児島大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 土砂災害 / 蒸発量 / バルク法 / 不飽和土 / 水分特性曲線 / 不飽和透水係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では,不飽和土の蒸発特性の計測を中心とした研究を行うとともに,土種類や締り具合などの土の基本的物理量が,不飽和土の蒸発特性に与える影響を考察した。さらに,不飽和土の蒸発特性の計測結果とその考察に基づいて,裸地面からの蒸発量を推定する数理モデルの開発を行った。 不飽和土の蒸発特性の計測に関する研究では,蒸発特性を評価するパラメータである交換速度と蒸発効率の算定方法に関する検討として,土の熱特性を考慮した交換速度の算定方法を新たに提案し,提案法に基づく蒸発効率の算定結果を考察した。結果,提案法により,従来法と比較して変域を満足する蒸発効率が得られることを明らかとした。さらに,室内試験方法に関する検討として,温度計測方法が試験結果に与える影響を示すとともに,不飽和土の保水・浸透・蒸発特性の同時計測方法を新たに提案した。結果,同時計測方法において,蒸発特性については計測結果の詳細な解析が必要とされるものの,保水・浸透特性は効果的に計測できることを明らかとした。 土の基本的物理量が不飽和土の蒸発特性に与える影響に関する考察では,蓄積した試験結果に基づき,粒度分布の異なる土試料における蒸発効率の関数形の違いを検討した。結果,細粒分含有率が大きい土試料ほど,より多い土中水分量において蒸発効率が減少し始めることを明らかとした。 以上の成果に基づいて,裸地面からの蒸発量を推定する数理モデルの開発を行った。モデルは,土の基本的物理量から推定される土中の間隙構造に基づき,不飽和土の蒸発特性を評価するものである。現在までに,土中空隙における水蒸気の流れに着想した蒸発特性の算定式を提案した。 これらの成果は,斜面表層における蒸発量推測手法の開発に向けて,蒸発特性に関する試験結果の信頼性向上,保水や浸透などの土質特性と関連付けた試験結果の蓄積,数理モデルの物理的根拠の担保に意義を持つものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに,(1)土の基本的物理量が不飽和土の蒸発特性に与える影響の考察,(2)土中の間隙構造と不飽和土の蒸発特性の関係の定式化,(3)植生が不飽和土の蒸発特性に与える影響に関する文献調査,を行った。これらは,研究実施計画に基づいた項目である。 項目(1)では,不飽和土の蒸発特性の計測について,室内試験方法とデータ分析方法を検討した。これにより,計測範囲の把握と試験結果の信頼性向上に成功した。さらに,不飽和土の保水・浸透・蒸発特性の同時計測方法を提案し,その実現に向けて試験装置の整備およびセンサー類の特性の検証を行った。これにより,保水・浸透・蒸発特性を同時に計測できる可能性を示すとともに,各特性の試験結果を蓄積した。その後,蓄積した試験結果に基づき,土種類や締り具合などの土の基本的物理量が,不飽和土の蒸発特性に与える影響を蒸発効率に着目して考察した。これにより,間隙比が小さく,細粒分含有率が大きい土試料ほど,より多い土中水分量において蒸発効率が減少し始めることを明らかとした。 項目(2)では,裸地面からの蒸発量を推定する数理モデルの提案として,土中の間隙構造と不飽和土の蒸発特性の関係を定式化した。これまでに,式中のパラメータである水蒸気経路数と土の基本的物理量の関係を,土質条件の異なる試験結果に基づき考察している。今後,関係を定式化することで,数理モデルがロームやシルトなどの様々な土質に対して適用可能になると予想される。 項目(3)では,植生面を対象とした数理モデルの適用範囲の拡大に向けて,植生が不飽和土の蒸発特性に与える影響に関する文献調査を行った。既往の研究成果から得られた知見を踏まえ,数理モデルに植生層を導入した多層モデルを構築することで,植生の影響を定式化できると予想される。 以上の成果より,研究計画に従いおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,ロームやシルトなどの様々な土質に加え,植生面を対象とした数理モデルの適用範囲の拡大に向けて,数理モデルに用いるパラメータである水蒸気経路数と土の基本的物理量の関係および,植生と不飽和土の蒸発特性の関係の定式化に取り組む計画である。これらの実施に際して,土質条件および植生条件を考慮した蒸発特性に関する試験結果の蓄積と考察を行う。 数理モデルの構築後は,その妥当性の評価および適用可能範囲の把握を目的として,実斜面における実証実験を実施する。このとき,数理モデルの構築において,植生と不飽和土の蒸発特性の関係を十分に定式化できていた場合は植生を有する実斜面を,そうでない場合は裸地の実斜面を対象とする。実証実験では,現地斜面における粒度分布や間隙比などの土質条件に加え,斜面表層からの蒸発量,気象データ,土中複数深さでの温度と水分量を計測する。さらに,それらの計測結果を入力パラメータとして,数理モデルにより蒸発量を推定する。蒸発量の推定結果を現地計測結果と比較することで,数理モデルの妥当性および適用性を確認する。このとき,妥当性または適用性が不十分であった場合は,数理モデルの改良に取り組む。 数理モデルの妥当性および適用性の確認後は,数理モデルにより推定した地表面蒸発量を境界条件として機械学習させ,実証実験の条件に合わせて土中水分量を予測する。土中水分量の予測結果を現地計測結果と比較することで,機械学習の適用性を確認する。適用性が不十分であった場合は,使用手法を変更して土中水分量を予測する。予測した土中水分量を用いて斜面安定解析を行い,土砂災害に対する危険度を評価する。評価結果に基づき,降雨後の土砂災害に対する警報解除について,地表面蒸発量を考慮した定量的な基準設定を試みる。
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