2022 Fiscal Year Annual Research Report
原子層折り紙を利用したハーフナノチューブの作製と機能開拓
Project/Area Number |
22J23293
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
金田 賢彦 東京都立大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 遷移金属カルコゲナイド / ナノチューブ / カイラリティ / スクロール |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)を円筒状に丸めたナノチューブは、その曲率や巻き方(カイラリティ)に由来した巨大バルク光起電力効果や非相反輸送現象などの観測によりおおきな注目を集めている。また、ごく最近、TMDのカルコゲン原子対の組成が非対称なヤヌスTMDの合成が報告され、結晶内に内部電場を持つ系として大きな注目を集めている。本研究では、新たな円筒状TMDナノ構造の実現のため、ヤヌス遷移金属カルコゲナイド(ヤヌスTMD)をトップダウンで丸めることで円筒状の多層スクロールの作製を行ってきた。今年度は以下の2点が主要な成果となる。 (1)Mo,S,SeからなるヤヌスMoSSeにクロロホルムを溶媒としたアクリル樹脂を滴下することにより、ヤヌススクロールの作製に成功した。作製した試料は透過電子顕微鏡観察とEELS元素分析により、結晶構造を解析した。スクロールはファンデルワールス力により積層しており、Se原子面を外側にしたヤヌス構造を形成していることを確認した。 (2)ケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)を利用してヤヌスMoSSeの仕事関数を測定した。ヤヌスMoSSeは単層のS原子面とスクロールのSe原子面で仕事関数の値が大きく変化しており、第一原理計算との比較よりヤヌスMoSSeに内在する電場が作るポテンシャルの差であることが分かった。今後は今年度作製に成功したヤヌススクロールの利用により、曲率やカイラリティに由来した物性研究への展開が期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Mo,S,SeからなるヤヌスMoSSe単層膜を円筒状に丸めたヤヌススクロールの作製に成功し、電子顕微鏡観察および元素分析から、スクロールがヤヌス構造を形成していることを実証した。またケルビンプローブフォース顕微鏡により、S原子面とSe原子面間で表面電位差を観測し、第一原理計算からヤヌスTMD系に内部電場が存在することを検証した。特に、ヤヌスTMDのナノスクロールの実現は世界で初めてであり、そのユニークな構造より物性・応用研究に新たな展開が期待される。以上により、当初の予想を超える進展があったといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は昨年度に引き続き、ヤヌスTMDナノスクロールの電子輸送/光学応答特性の測定を通じて、曲率やカイラル構造に由来する特異な物性の測定を目指していく。一方で、現時点では電気伝導特性の測定に関しては、試料が1マイクロメートル程度と短い点や電極との接触抵抗が高い点が課題となっている。これらの課題の解決に向け、試料作製条件の改善や、低接触抵抗を実現する電極材料や金属蒸着条件の探索を進める。また、光学測定は、発光やラマン散乱の偏向や温度依存性を調べ、ナノスクロールの基礎的な光学応答を明らかにする。最終的には、バルク光起電力や非相反伝導現象などの探索へと繋げていく。
|