2022 Fiscal Year Annual Research Report
Study of a Rivalry between Titian and Raphael in the 1510-30s
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22J21804
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
大熊 夏実 京都市立芸術大学, 芸術学専攻, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 西洋美術史 / ティツィアーノ / ラファエロ / イタリア・ルネサンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、関連性を見出し得るティツィアーノとラファエロの作品について多角的な視点から考察を行い、複数の事例研究(計5件を予定)から見出し得る傾向や変遷を踏まえて、両者のライヴァル関係の様相を紐解くことを目的とする。 本年度では、修士課程より継続調査していたティツィアーノの《ゴッツィ祭壇画》とラファエロの《フォリーニョの聖母》の事例について、美術史学会での口頭発表および学会誌への論文投稿を行った。論文内では、両作が主要なフランチェスコ会聖堂の主祭壇画であったという共通点に着目し、同修道会が熱心に推し進めた「無原罪の御宿り」の文脈から作品を再検討した。《フォリーニョの聖母》には既にこの教義の含意が指摘されてきたが、論文では新たに《ゴッツィ祭壇画》における「無原罪の御宿り」との関連を指摘した他、両作と類似の図像を有するガロファロ作の祭壇画や、当時の修道会内部の動向などを鑑み、本事例におけるティツィアーノのラファエロ参照には、教会の修道士たちが大きく関与していた可能性を提示した。なお本事例は、1520年代のいくつかのティツィアーノ作品に見られる、ラファエロへの強い対抗意識をもたらす重要なきっかけとして位置づけられると考える。 その他、ティツィアーノ作《キリストの埋葬》とラファエロ作《キリストの遺骸の運搬》の事例研究に関連して、当初の依頼状況が不明である前者の目録記録を精査し、絵画の所有者や設置場所をめぐる先行研究の問題点を整理した(口頭発表、論文投稿)。また、ティツィアーノがフェラーラ公アルフォンソ1世のために行った最初期の仕事である《硬貨を手にしたキリスト》について、宮廷とのかかわりから検討した。画家の自己宣伝的な側面を有する本作は、続く《バッカスとアリアドネ》の仕事において、ティツィアーノがラファエロの後釜となり得る布石の1つとして重要な作品であると考える(口頭発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計5件を予定している事例研究のうち、1件(《ゴッツィ祭壇画》と《フォリーニョの聖母》)の成果発表、および2件(《キリストの埋葬》と《キリストの遺骸の運搬》、《バッカスとアリアドネ》と《インドにおけるバッカスの勝利》)に関連する調査、成果発表を行う事が出来た。また、4件目のティツィアーノ作《改悛するマグダラのマリア》とラファエロ作《アレクサンドリアの聖カタリナ》の事例研究のための事前調査にも既に着手し、来年度中に論文の形でまとめる見通しである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、未着手の2件の事例研究を中心に取り組む他、既に調査した事例のまとめ及び補足調査を行い、博士論文の執筆を進める。 ティツィアーノの《悔悛するマグダラのマリア》とラファエロの《アレクサンドリアの聖カタリナ》の事例研究のための事前調査の結果、両作の聖女に共通する、天上を見つめる視線や古代彫刻「恥じらいのヴィーナス」から引用された手のポーズが、聖人半身像絵画において例外的な要素であることが確認された。したがって本研究では、これらの共通点から両作の関連性の実態を探りたい。とりわけ、聖女にヴィーナス像のポーズを適用する形でなされた、キリスト教と古典神話の融合または貞淑と官能性の融合は、当時の文学サークルとのかかわりを反映していると思われる。ティツィアーノとラファエロ周辺の文学者やその著作に関する文献調査を中心に、両作の関連性について文学的観点からアプローチする。 また、ティツィアーノの《聖母被昇天》とラファエロの《キリストの変容》についても調査を進め、ティツィアーノがラファエロに与え得た影響について検討する。両者の影響関係を巡っては、専らラファエロからの影響に言及されることがほとんどであるが、《キリストの変容》には、陰影によって光を際立たせる描写や、遠景に見える赤みがかった空の表現にヴェネツィア派的な特徴が窺えるのである。こうした作品分析に加え、作品の注文状況や画家および周辺人物たちの動向などについて精査し、両作における影響関係とその方向について妥当性のある解を見出したい。 なお、次年度中に1ヶ月程度イタリアに滞在し、本研究で扱う作品群の実見調査を行う予定である。またそれ以降も、博士論文の執筆に伴う補足調査のためにイタリアの文書館等での史料調査を行いたいと考えている。
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