2022 Fiscal Year Annual Research Report
近世の国家・社会と朝廷下級役人―口向役人の分析による近世朝廷像の再検討―
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21J20181
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
細谷 篤志 学習院大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 近世朝廷 / 口向役人 / 京都 / 都市社会 / 上賀茂社家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世の国家・社会において朝廷がいかに存立しえたかを、朝廷下級役人たる口向役人を分析対象とし、①朝廷の運営構造、②朝幕関係、③朝廷と周辺地域との関係、の3点に関して、現場・実務レベルから新知見を加えることが課題である。採用2年目にあたる本年度は、とくに③に重点を置いて研究を進めた。 まず、前年度までの成果をもとに論文を執筆した。内容としては、近世の京都とその周辺地域における口向役人の存在形態を検討し、あわせて京都の口入屋(「人足請負人」)が朝廷(御所・公家屋敷)に日用人足を供給していた事実を明らかにしたものである。これにより、近世において朝廷が、口向役人の人的基盤として、また用達による労働力の供給を通じて、京都の都市社会と密接に関係していたとの結論が得られた。「近世朝廷の下級役人集団と京都―口向役人と御所奉公人の存在形態―」として、『日本歴史』に発表予定である(採録決定済み、掲載号未定)。 次に、研究の基盤整備のため、関係史料の調査・収集に力を入れた。実際に調査に赴いた史料所蔵機関は、首都圏では宮内庁書陵部・東京大学史料編纂所・國學院大學図書館、遠方では、京都大学総合博物館・京都市歴史資料館・姫路文学館・西尾市岩瀬文庫の各所である。これらにおいて、口向役人の手による記録類や、口向役人を輩出した家の史料群などを新たに発掘し、諸史料の分析にも着手した。 とりわけ國學院大學図書館に所蔵されている「賀茂別雷神社座田家文書」からは、口向役人を務める上賀茂社家の実態を見出すことができたため、それを主題とする報告を日本史攷究会大会において行った。本報告では、従来いわれている以上に、京都の社家が朝廷内に根を下ろしていたことを明らかにし、朝廷運営の担い手としての社家の位置をより明確にしえたと考える。現在、報告内容の論文化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度において公表できた成果は、研究報告1件と少ないが、査読誌に投稿した論文の掲載が決定したほか、昨年度には叶わなかった遠方での史料調査を精力的に実施して、多くの新史料を発見・収集することができた。これにより新たな研究課題を複数見出し、研究基盤を大幅に整えることができたため、昨年度の進捗状況もふまえて「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、上記3点の研究課題のうち、まずは③について集中的に検討する。一つは、本年度に取り組んだ上賀茂社家の口向役人任用の事例に関して、論文化に取り組む。いま一つは、本年度の史料調査で新たに見出した、口向役人の家の史料を分析し、近世京都における朝廷下層社会(朝廷の下層部分の組織・集団や、朝廷周辺の都市・在地社会の諸主体を包摂した人的ネットワーク)の実態と変容のありようを検討する。対象時期としては18世紀後半以降、明治維新期をも射程に入れる。 また、①・②に関しても、口向の筆頭職「取次」を世襲した家の史料を用いて、昨年度以来の研究課題の一つである、近世公武における取次の機能と性格について、さらなる検討を試みる。 これらの成果をもとに、学会報告や論文の執筆・投稿を積極的に行いたい。引き続き各地での史料調査についても並行して行い、収集史料の分析も進める。
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