2021 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳動物で獲得されたアラーモンによる新たなストレス応答制御機構の解明
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21J00755
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊藤 道俊 慶應義塾大学, 環境情報学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 緊縮応答 / ppGpp / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌のストレス応答を包括的に制御する、グアノシン四リン酸(ppGpp)が動物細胞において検出された。しかし、その合成経路、関連するシグナル伝達系、どのような代謝調節を行っているかなどは一切明らかになっていない。そこで、本研究では、哺乳動物細胞におけるppGppによる細胞制御システムの分子基盤を明らかにし、細胞内における生理的な役割を明らかにすることを目的とする。
2021年度は、動物のグアノシン三リン酸(GTP)センサーである、ホスホイノシチジルイノシトール5-リン酸4-キナーゼβ(PI5P4Kβ)を、ppGppのエフェクター分子候補の一つと定め、その結合性の評価を行った。まず、X線結晶構造解析によって、ppGppがGTPと同じ位置でPI5P4Kβと結合することが確認された。一方で、等温滴定カロリメトリー(ITC)によってppGppのPI5P4Kβへの結合力を評価したところ、基質をGTPとしたときには熱が観測された濃度範囲においてppGppでは熱が観測されなかった。以上のことから、ppGppはPI5P4Kβと結合はするものの、その結合力はGTPよりも弱いと考えられる。今回の結果は動物由来のタンパク質がppGppと結合することを確認した実験であり、動物がppGppに反応しうることを示したという点で重要な知見となった。
さらに、ppGppと結合しうる別のタンパク質を探索するため、Protein Data Bank (PDB)よりGTPやその他の核酸と結合したタンパク質の構造データを網羅的に収集した。収集した構造のリガンド周辺の空間を計算し、ppGppが入れるほどの空間を持つタンパク質をスクリーニングした。その結果、収集した128種の構造のうち、76種がこの条件に該当した。今後はこれらの候補タンパク質を精査し、ppGppシグナル伝達に関わるタンパク質候補の発見を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は当初の予定通り、PI5P4KβとppGppの共結晶の作成に成功し、X線結晶構造解析によってppGppのPI5P4Kβとの結合部位を同定した。また、ITCによる相互作用解析を行い、ppGppのPI5P4Kβへの結合力を評価した。その結果、ppGppはPI5P4KβとGTPと同じ結合部位に結合するが、その結合力はGTPよりも弱くなることが示唆された。PI5P4KβがppGppのエフェクター分子であることは示すことができなかったが、実験は概ね予定通り進捗したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS法)を用いたppGppの新たな定量系の開発を行う。高感度でイオンペア試薬を用いない定量系を開発できた場合には、さまざまなストレス条件や細胞種におけるppGppを定量し、動物細胞においてppGpp量が変化する条件を同定する。さらに、動物のppGpp分解酵素であるMESH1のノックアウト株および過剰発現株を作成し、代謝解析等を行う。これにより細胞内のppGpp量の増減が生体に対して与える影響を精査する。
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