2022 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳動物で獲得されたアラーモンによる新たなストレス応答制御機構の解明
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21J00755
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Research Fellow |
伊藤 道俊 慶應義塾大学, 環境情報学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 緊縮応答 / ppGpp / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、イオンペア試薬を用いない動物のppGpp定量系開発を行った。計画当初は、イオン性代謝物の検出を得意とするキャピラリー電気泳動質量分析計(CE-MS)を用いた実験系の開発を行っていたが、検出感度の問題から、定量系開発には至らなかった。そこで、同じくイオン性代謝物の検出を得意とするイオンクロマトグラフィー質量分析計(IC-MS)を用いて開発を行った。また、リン酸特異的な固相抽出カラムを用いることでppGppを濃縮および夾雑物の除去を行った。抽出操作中におけるppGppの分解を抑制するため、ホスファターゼ阻害剤を添加して抽出作業を行った。これらの検討の結果、腎がん細胞株Caki-1細胞および子宮頸がん細胞株HeLa細胞からppGppと思われるシグナルの検出に成功した。しかし、ppGppの標準品のクロマトグラムと比較すると、リテンションタイムが一致しなかった。そこで、MS/MSを行ってフラグメントイオンを確認したところ、標準品とほぼ同じ開裂パターンとなった。このことから、動物にはppGppの異性体が存在していることが示唆された。 本研究により、実験系を汚染せず、安定的にppGppを検出できる系の開発に成功した。また、ホスファターゼ阻害剤を添加することで、検出されるppGppシグナルが劇的に改善された。今後は、動物から検出されたppGpp様シグナルの構造を、核磁気共鳴(NMR)などで同定し、当該物質が動物細胞にどのような作用を及ぼしているのかを明らかにする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度はイオンペア試薬を用いないppGpp定量系の開発及びストレス条件下や、ppGpp分解酵素Mesh1を欠損した細胞におけるppGpp定量を行う予定であった。 まず、腎がん細胞株Caki-1細胞を用いて、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)での開発を試みた。しかし、検出感度の問題からppGpp定量に不向きであることが判明し、CE-MSでの開発を断念した。そこで、新たにイオンクロマトグラフィー質量分析法(IC-MS)を用いた定量系の開発を行った。 さらに、ppGppの細胞内濃度は低いことが予想されたことから、よりロスの少ないppGpp抽出方法の検討を行った。リン酸基特異的な固相抽出カラムを用いて細胞溶解液の精製を行う事で検出強度の向上に成功した。さらに、抽出作業中のppGpp分解を防ぐためにホスファターゼ阻害剤を添加したところ、検出強度の劇的な改善が見られた。開発した実験系を子宮頸がん細胞株のHeLa細胞にも適用したところ、同様にppGppシグナルが検出された。 しかし、検出されたppGppシグナルは、標準品とリテンションタイムが一致しなかったため、MS/MSによるフラグメントイオンの解析を行った。この結果、動物細胞から検出されたppGppの分子量を持つシグナルは、ppGpp標準品とほぼ同じ開裂パターンを示した。このことから、動物細胞にはppGppの異性体が存在していることが示唆された。今後は核磁気共鳴(NMR)などを用いて当該分子の構造を同定し、動物細胞にどのような影響を与えているのか精査する必要がある。 上記の通り、検出された分子は異性体だったことから、分子構造を同定が必要となったものの、ppGppの検出系開発は順調に進捗した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はイオンクロマトグラフィー質量分析法(IC-MS)を用いたppGpp定量系の開発に成功した。しかし、がん細胞より検出された分子はppGppの異性体であることが示唆されたことから、2023年度はまず分子構造の同定を行う。その後、この系を用いて、当該分子の量が変化する種々のストレス条件や細胞種の違いを明らかにし、動物細胞における役割を精査する。さらに、動物のppGpp分解酵素Metazoan SpoT homolog 1(MESH1)のノックダウン株を作成し、本分子の変化を解析することで、Mesh1による制御を受けるかどうかを確認する。 また、ppGppを固相化したビーズを作成し、ppGpp特異的に結合するタンパク質を同定する。これによって細胞内のppGppがどのようなシグナル機構に関わっているか明らかにする。
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Research Products
(2 results)