2022 Fiscal Year Annual Research Report
Control of current-induced Rashba torque
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21J22062
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
鈴木 隆起 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピン流 / スピン軌道トルク / イオン液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,スピントロニクスデバイスの新たな機能性を生み出すことであり,特に軌道流由来のトルクをイオンゲルのゲート効果によって電気的に制御することであった.近年,軌道流の存在が理論的に明らかとなり,スピン軌道相互作用の小さい材料を用いて実験的にも示唆された.軌道流の観測及び制御は,スピントロニクス研究に新たなパラダイムを齎すことが期待される. 本研究のこれまでの実績として,以下の3つが挙げられる. 1つ目に,イオン液体の選定とイオンゲルの最適化を行った.軌道流をゲート制御するために電位窓や漏れ電流の観点で優れたI-V特性を有するイオンゲルを作製する必要があった.イオン液体DEME-TFSIおよびブロック共重合体を用いることで,先行論文に匹敵したI-V特性を有するイオンゲルの作製に成功した.また,関連成果として,第70回応用物理学会春季学術講演会にてポスター発表を行った. 2つ目に,軌道流の観測にあたり,異なる2つの二次元ファンデルワールス(2DvdW)材料を重ね合わせるというアプローチを考えたため,まずは新規の2DvdW強磁性材料であるFe5GeTe2を選択し,磁気特性を調べた.その中で,通常の強磁性体金属とは異なる磁気的振る舞いを観測することに成功し,国際論文として出版されることが決定している.さらに,磁気特性を調べる工程で,2DvdW材料の微細加工プロセスも確立することができた. 3つ目に,強磁性体の組成比を変化させることによって軌道トルクの大きさを変調させることに成功した.当初,異なる2つの2DvdW材料を用いて,軌道流のゲート制御を実施する予定であったが,近年,軌道流がトルクに変換される際に,強磁性体の種類に強く依存することが明らかとなってきたため,強磁性体組成比率を堅牢に制御し,軌道トルク効率の組成依存性を定量化することを優先した.現在,観測結果を成果にまとめている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目標達成には,大きく分けて,「イオン液体の選定及びイオンゲルの最適化」,「軌道流生成材料の選定」,「軌道トルクへの変換が最大となる強磁性体の探索」,「イオンゲルによる軌道流のゲート制御」の四つが必要である.上記で述べた通り,「イオン液体の選定及びイオンゲルの最適化」及び「軌道流生成材料の選定」を完了し,「軌道トルクへの変換が最大となる強磁性体の探索」の途中までを現在までに実施した. 特に,「軌道流生成材料の選定」の過程で,新規の二次元ファンデルワールス強磁性材料であるFe5GeTe2の磁気特性を詳しく調べて,成果としてまとめた.なお,国際論文として出版されることが決定している. また,「軌道トルクへの変換が最大となる強磁性体の探索」の過程で,強磁性組成比を堅牢に制御することで軌道トルクの組成依存性を観測し,観測結果をまとめることができる見通しであるため,概ね順調に進展していると言える.以下に現在までの研究詳細を述べる. 【試料作成】常磁性体/強磁性体合金(Ni, Fe, Co)の二層膜を,高周波スパッタリング法を用いて成膜し,フォトリソグラフィー法とアルゴンイオンミリングを用いて微細加工を行って電気的・磁気的測定が可能なデバイスを作成した.強磁性体合金の組成は複数種類用意した. 【測定】スピントルク強磁性共鳴法(ST-FMR)を用いて,直流電圧測定し,強磁性体組成比率ごとに軌道流由来のトルクを観測した. 【結果・考察】これまでの測定により得られた強磁性体組成比と軌道トルク効率の関係から,軌道トルクの変換が最大となる強磁性体組成比を明らかにすることを試みている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,「軌道流生成材料の選定」の続きから始めた.具体的には,Fe5GeTe2における異常ホール効果の観測結果から,二次元ファンデルワールス強磁性材料の電子伝導メカニズムを明らかにした上で成果にまとめた.この成果は,国際論文として出版される予定である.その後,軌道流からトルクへの変換が強磁性体の種類に強く依存することが明らかになりつつあったため,強磁性組成比を堅牢に制御することで軌道トルクの組成依存性について詳しく調べた. 次年度は,今年度で進めていた「軌道トルクへの変換が最大となる強磁性体の探索」の続きから始める.具体的には,常磁性体/強磁性体合金(Ni, Fe, Co)の二層膜における軌道トルク効率の観測結果から,強磁性体組成比と軌道トルク効率の関係を明らかにし,成果にまとめて国際論文や学会で報告するところから着手する.その後,これまでに磁気特性を調べた二次元ファンデルワールス強磁性材料であるFe5GeTe2と,軌道トルクが最大となる強磁性体合金を用いて,微細加工をすることでデバイスを作成し,軌道流由来のトルクやその他の界面スピン特性の観測を試みる.本研究では,スピントルク強磁性共鳴測定を用いて,強磁性体にかかる軌道流由来のトルクを定量する予定である. さらに最終的には,「イオンゲルによる軌道流のゲート制御」として,二次元ファンデルワールス材料/強磁性体合金の二層構造にイオンゲルのゲート効果を適応することで,軌道流由来のトルク及びその他の界面スピン特性の制御を行うことを想定している.
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