2022 Fiscal Year Annual Research Report
病原真菌ー免疫細胞共培養法による新規天然物の探索と「浸潤進化」の解明研究
Project/Area Number |
22J12325
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
氏江 優希子 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | 浸潤進化 / 天然物 / 共培養 / 休眠遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
放線菌や真菌の二次代謝産物は医薬品として有用であるが,近年の新規化合物の取得は減少傾向にある.一方で,放線菌や真菌の二次代謝物生合成遺伝子の大半は休眠状態であり,それを活性化することで新規化合物が得られると考えられている.そのような背景において,我々は「病原微生物は免疫細胞から攻撃されると,生き残るために休眠遺伝子を活性化し,免疫抑制化合物を産生するのでは」と仮定し,病原放線菌と免疫細胞の共培養法を世界で初めて開発し,新規化合物の取得に成功した.また,宿主への感染を容易にする化合物の産生能力の獲得はある種の進化の結果とも捉えられ,我々はこれを「浸潤進化」と呼ぶことにした.本研究では,我々が近年開発した「病原微生物と動物細胞の共培養法」による休眠遺伝子活性化を用いて,病原真菌から新規化合物を得るとともに,免疫抑制に関わる生物活性を評価し,微生物が有する「浸潤進化」の解明に挑む.微生物がどのような機構で休眠遺伝子を活性化するのか,産生された化合物は病原性と関わりがあるのか,「浸潤進化」と名付けた現象を化合物の観点から明らかにすることを目的とする.
これまでに,臨床検体から分離された病原真菌17種21株と動物免疫細胞を対象に様々な条件下で共培養を行い,Aspergillus terreusとヒト単球系白血病細胞 THP-1の組み合わせにおいて,共培養特異的に生産される化合物としてbutyrolactone I類縁体を同定し,butyrolactone Iaと命名した.また,本化合物は,炎症応答の指標である一酸化窒素(NO)の産生を抑制した.加えて,THP-1の細胞培養上清をA. terreusに添加してもbutyrolactone Iaは産生されなかったが,細胞のみを添加することで生産されたことから,本化合物の産生にはTHP-1細胞との物理的相互作用が必要であることが示唆された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では,「浸潤進化」の解明を目的として,病原真菌と動物免疫細胞を対象に様々な条件下で共培養を行い,新規化合物の取得を行う.また,免疫抑制活性の評価を行い,共培養特異的化合物と免疫の関係を探る.さらに,共培養法による休眠遺伝子活性化機構を解明すると共に,病原性と共培養特異的化合物の関係性を探る. これまでに,臨床検体から分離された病原真菌17種21株と動物免疫細胞を対象に様々な条件下で共培養を行い,Aspergillus terreusとヒト単球系白血病細胞 THP-1の組み合わせにおいて,共培養特異的に生産される化合物を検出した.MSおよびNMRのデータから本化合物をbutyrolactone I類縁体として同定し,butyrolactone Iaと命名した.また,本化合物は,炎症応答の指標である一酸化窒素(NO)の産生を抑制した.この結果は,真菌が免疫細胞の攻撃から身を守ろうと免疫抑制物質を産生する可能性があることを示唆している.また,butyrolactone Iaは,細胞培養上清を添加しても産生しなかったが,細胞のみを添加することで産生することが分かった.この結果は,butyrolactone Iaの産生にはTHP-1細胞との物理的相互作用が必要である可能性を示唆している.今後は,butyrolactone Iaの免疫抑制活性をさらに解明するとともに,butyrolactone Iaの産生メカニズムの解明に取り組む. このように申請者は,熱心に研究を遂行し,学会等でもその成果を発表した.特に国際学会でポスター発表を行い,英語で成果を発表した.研究成果も順調に出ており,今年度中に論文にまとめる予定である.
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は,butyrolactone Iaの免疫抑制活性の詳細と産生メカニズムの解明に取り組む. まず,butyrolactone Iaのさらなる免疫抑制活性を解明するために,一酸化窒素合成酵素 (iNOS)およびその上流の遺伝子に与える影響をwestern blottingおよびqPCRを用いて確認する. 続いて,butyrolactone Iaの産生メカニズムを解明するために,透析膜を用いて細胞と真菌の物理的接触を遮断し,本当に細胞との物理的相互作用が必要かどうかを確認する.また,菌と細胞の共培養法により,どのような代謝経路が活性化するのかを明らかにする.具体的には,共培養および菌のみの単培養のサンプルにおいて,RNA-seq.を用いたmRNA発現量の比較解析を行い,共培養時に活性化する生合成遺伝子を予想する.さらに,菌のみの単培養時と比較して共培養時に目的遺伝子の発現が活性化することをqPCRにて確認する. また,現在,他の細胞および真菌の組み合わせでも共培養特異的化合物の産生が見られているため,その化合物の単離・構造決定をし,同様に活性評価と産生メカニズムの解明に取り組む.それらを通じて,共培養法による化合物の産生が普遍的な現象であることを明らかにする.得られた成果は積極的に学会にて発表し,今年度中に論文にまとめる予定である.
|
Research Products
(3 results)