2022 Fiscal Year Annual Research Report
新規心臓線維芽細胞サブセットの機能解析と心筋梗塞後心不全の新たな治療戦略の開発
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22J12746
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
高 聖淵 慶應義塾大学, 医学研究科(信濃町), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 心筋梗塞 / 炎症 / 線維芽細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
心臓線維芽細胞におけるSipa1の発現が心筋梗塞後の急性期における炎症を制御していることが示されており、その制御機構を解明する目的でSipa1 flox/flox Tcf21Cre/+ tdTomatoレポータマウスを作成し、心筋梗塞を作成してフローサイトメトリーにて単離したSipa1がノックアウトされた線維芽細胞と単球、マクロファージを単離し、それぞれ梗塞後1日目から3日目までの遺伝子発現をそれぞれ解析した。その結果、梗塞後1日目より線維芽細胞においてCcl2, Ccl7の発現がSipa1ノックアウトされた線維芽細胞において低下している事に加えて、浸潤した単球をマクロファージに分化させ炎症を賦活化する因子として知られるGene Xの発現も低下していることを見出した。そして、浸潤した単球やマクロファージの炎症性サイトカイン、ケモカインの発現は梗塞後1日目ではノックアウト群と対照群では差が無いのに対し、心筋梗塞後3日目に於いては有意にノックアウト群では発現が抑制されていたことを見出した。次に心臓線維芽細胞におけるSipa1がどうCcl2, Ccl7, Gene Xの発現を制御しているかを調べるため、マウスの心臓から線維芽細胞の初代培養を行い、レンチウイルスを用いてSipa1の発現をノックダウンしてRNA sequenceによる遺伝子発現の差異を検討した。その結果、Sipa1が負に制御しているRap1シグナル系の下流遺伝子の発現に変化がない一方で、新たに別系統のシグナル分子であるGene Yの発現に差があることを見出した。そのGene Yが制御するシグナル分子の活性化の度合いをウエスタンブロットで検討したところ、ノックダウン群でシグナル分子の活性が抑制されており、Ccl2, Ccl7, Gene Xの発現抑制の原因になっていることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心筋梗塞モデルに使用する遺伝子改変マウスのbreedingが順調であり、またin vivoの実験系が令和4年度の研究が始まる前からある程度確立されていたため、in vivoの実験については大方予想通りの進展を得ることができた。また、当初からフローサイトメトリーで得られる心筋梗塞部に存在する心臓線維芽細胞の量が非常に少ないことを想定していたため、RNA sequenceに必要な量のRNAを得るにはin vitroの実験系の確立に早期から取り組んだ。これにより、新型コロナウイルスの流行による物流システムダウンが核酸試薬をはじめ海外から調達する試薬の手配に影響して試薬を得るのに想定以上に時間を要したり、実験系の確立自体も難易度が高く想定以上に時間を要したこともあったが、ウエスタンブロットに関しては作業工程の見直しを行って一度にできる実験量を増やすことに成功し、1年間で目標としていた進展を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
心臓線維芽細胞のGene Xの発現が実際に単球やマクロファージによる炎症を制御しているかを確認するため、まず心臓線維芽細胞の培養上清におけるGene Xをタンパクレベルで測定してSipa1ノックダウン群と対照群で比較する。そして、骨髄由来マクロファージを培養し、心臓線維芽細胞の培養上清をふりかけて遺伝子発現の変化を検討する。さらに、Gene Xのタンパクの中和抗体を投与して同様の遺伝子変化が観察されるかを確認することを予定している。一方で、Sipa1をノックダウンすることにより発現が低下したGene YがRap1と異なる標的となるシグナル系を通してCcl2, Ccl7, Gene Xの発現を制御していることがこれまでの実験で示唆されたが、初代培養の心臓線維芽細胞において実際にGene Yをノックダウンすることにより、標的となるシグナル分子の活性が低下し、Ccl2, Ccl7, Gene Xの発現抑制が再現されるかをタンパクおよび遺伝子レベルで検討する。現時点でSipa1やGene Yを抑制する試薬が存在しないため、Gene Yが制御するシグナル系を抑制する試薬を探索して、存在すれば心筋梗塞モデルのマウスに投与し、生存率、心機能、梗塞部の炎症性サイトカインやケモカインの発現、フローサイトメトリーや組織学的評価においてこれまでのin vivoの結果が再現されるかを検証する方針である。
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