2023 Fiscal Year Research-status Report
高放射線環境に生息する微生物群集構造解析および優占種の性状解析
Project/Area Number |
22KJ2728
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藁科 友朗 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 微生物群集解析 / 電離放射線 / 福島第一原子力発電所 / トーラス室 / メタ16S解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う津波の影響で,福島第一原子力発電所の原子炉建屋の地下にあるトーラス室へ海水が侵入した.本研究では, 半閉鎖的な環境に約9年間滞留したと考えられるトーラス室水に生息するバクテリア叢の同定および,その生息環境への洞察を得ることを目的とした.解析に用いたトーラス室水(1×10^9 Bq 137Cs/kg)は,東京電力により最下層部から30cmから1mの間(TW1)と最下層部から(TW2)の2地点から採取された.16S rRNA遺伝子に基づいたバクテリア群集構造解析の結果,TW1はチオ硫酸塩酸化細菌であるLimnobacter属を,TW2ではマンガン酸化細菌であるBrevirhabdus属を中心とするバクテリア群集であり,TWを構成している主要なバクテリア属は類似していた.また,TWを構成している微生物の多様性は福島付近の海水と比較して低く,また,トーラス室水から同定されたバクテリア属の約70%が金属腐食への関連が報告されているバクテリア属であった.バクテリア群集から生息環境を推定できる環境トピック解析や, 公共データベースへ登録された6万サンプルのメタゲノムデータを用いたバクテリアの共検出割合を解析した結果,トーラス室水は自然環境である海洋微生物群と,人工環境であるバイオフィルム・汚泥・排水のバクテリア群の混合環境に由来する特異的な微生物コミュニティーであることが推定された.以上の内容をApplied and Environmental Microbiology誌に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年までの研究では,福島第一原子力発電所2号機トーラス室由来の滞留水を利用し,網羅的な微生物群集構造解析を行った.この汚染水から,特にチオ硫酸塩酸化細菌のLimnobacterが,そして熱水噴出孔から単離されたBrevirhabdusが優勢な属として確認された.これらの微生物は,放射線に対する抵抗性を示すことが予想され,本年度にはLimnobacter thiooxidance CS-K2株を用いた放射性抵抗性試験を行った.試験では,0, 2.5, 5 Gy/hの段階的な電離放射線を6日間照射し,その生育反応を観察した.その結果,放射線照射後のコロニー数は,5 Gy/hで照射されたサンプルで顕著に減少したが,この株が環境中に生息する他の多くのバクテリアと同程度の放射線抵抗性を持つことが示された.これは,Limnobacter thiooxidanceがトーラス室内の放射線レベル内で生息可能であることを示唆している.さらに,今年度の主要な成果として,「Applied and Environmental Microbiology」誌に発表した論文において,トーラス室水から識別された放射性元素を含む水に生息する制限されたバクテリアのマイクロバイオーム解析を行った.この研究では,放射性物質を含む環境での微生物群集の同定が,廃炉措置の進展にとって極めて重要であることを議論した.特に,トーラス室水における微生物群集の多様性が他の海水環境と比較して低いことが明らかになり,約70%が金属腐食に関連する属であることが特定された.
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Strategy for Future Research Activity |
滞留水から割合が最も高く同定されたチオ硫酸塩酸化細菌であるLimnobacter thiooxidanceの放射線に対する抵抗性およびその生物学的応答についての理解を深めるために,トランスクリプトームとプロテオームの解析を進めている.これらの解析から,放射線環境下での生存戦略として,どのような制御が有利であるか,またその影響を詳細に調査する.特に,放射線による直接的なDNAダメージや,放射線が水分子と反応して生成されるラジカルによる間接的な影響に対する応答メカニズムを明らかにすることが目標である.また,放射線耐性の高い微生物の探索とそのメカニズムの解明を目指し,福島県石川郡に位置するウラン鉱床である和久観音鉱山からバクテリアを採取し,そのゲノム配列を決定する計画である.この地域は放射線量が自然に高い箇所が存在するため,放射線耐性を有する可能性のある微生物を採取することが期待される.ここから単離された微生物は,比較ゲノミクスによりLimnobacter thiooxidanceと比較され,放射線耐性に関連する遺伝的要因や生理的特性を調べる予定である.
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Causes of Carryover |
旅費を別予算にて支出したため、残金が発生した。残金の58,470円は次年度の旅費に充てる予定である。
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