2022 Fiscal Year Annual Research Report
権力の批判理論の構築:フランクフルト学派、フェミニズム、人種の哲学を架橋する試み
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21J00128
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
成田 大起 成蹊大学, 法学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 批判理論 / ハーバーマス / ホネット / フェミニズム哲学 / 人種の哲学 / 認識的不正義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、フランクフルト学派研究とフェミニズム、人種の哲学研究を架橋することで、ジェンダー規範の社会的構築や内面化、人種差別による社会的排除などの権力現象を分析し、批判できる新しい批判理論を構築することである。
2022年度は、2021年度に野口教授の助言のもとで行った権力研究をベースとして、ジェンダー規範や人種規範の持つ、社会構造的な権力現象の分析を進めた。そこでは、特定の属性を持つ者に対し、特定の行動を取らないと懲罰を加える制度構造(例:結婚しない女性に対する承認の毀損)や、特定の属性を持つ者のステレオタイプをあたかも自然の事実として客観化する制度構造(例:アメリカにおける人種隔離)を論じた。そうした構造が持つ権力は、ジェンダー規範や人種規範の変革を妨げる機能を持つ。こうした権力の作用について、ハーバーマスやホネットの批判理論の視点から批判的分析を試みた。
2022年度に発表された論文はないが、以上の分析については、とりわけ国際査読誌に掲載を目指す論文の執筆、修正を進めた。2022年4月に投稿した論文は9月にRevise and Resubmitとなり、2023年4月に再びRevise and Resubmitとなった。現在、掲載に向けて最終段階の審査が行われている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度に発表された論文はないが、三つの論文・書著を2023年度に公刊すべく、執筆を進めた。一つ目は、ジェンダー間や人種間における不正義がいかにして資本主義経済と絡み合っているかを議論した論文であり、『政治思想研究』から「現代資本主義における正統化の問題」という題で、5月に刊行予定である。二つ目は、フェミニズム哲学や人種の哲学が論じてきた「認識的不正義(epistemic injustice)」に批判理論の観点からアプローチする論文であり、投稿と改変作業を進めた。三つ目は、博士論文をもとにして、「批判理論における批判とは何か」という問いを扱った単著であり、23年度中の出版に向けて執筆活動を進めた。
またこれらの研究を学会にて報告する準備も進めた。「現代の批判理論における疎外論―認識的不正義論への応用可能性」というタイトルで、2023年4月に応用哲学会にて報告予定である。この報告では、本研究の内容を、「疎外」の概念と関連づけて、応用可能性を示す。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2023年度は、これまでの研究成果を学会報告や論文という形でまとめる。本研究の内容を他の研究者と議論し、そのフィードバックをふまえ、論文として公刊することを目指す。これまでの研究によって、批判理論とジェンダー、人種の哲学を架橋する試みには、資本主義経済の動態を捉える必要性が明らかとなった。5月に刊行予定の日本語論文では、資本主義経済がフェミニズムや反人種差別主義の政治に与える影響力を分析した。 この議論をふまえ、2023年度はジェンダー、人種、階級の交差する権力と不正義を分析する論文を執筆し、国際査読誌に投稿する。アウトプット活動は、 Philosophy & Social Criticismなど国際査読誌の掲載を目指す。また夏休みの期間を利用して、フランクフルト大学やベルリン自由大学等で行われているサマーセミナーに参加し、執筆中の原稿を報告し、各国の研究者からフィードバックを貰うことを予定してる。
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