2023 Fiscal Year Annual Research Report
認知症当事者同士の語り合いによる当事者の自己の変遷といかに語りがたさは生じるか
Project/Area Number |
22KJ2773
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
矢野 真沙代 中央大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
|
Keywords | 認知症 / 当事者 / 語り / 自己 / 障害の社会モデル / 公衆衛生課題 / 障害学 / 質的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は2017年頃から本格的に認知症当事者の語りを聞き始めた。当事者が経験する認知症は、現時点での医学的定義や病態記述、認知症疫学とは異なる世界で、経験的事実により構築される生々しい現象であることを目撃してきた。過去に抗認知症薬を扱っていた薬剤師でもある申請者は、当初医療的まなざしで参与したものの、数々のフィールドワークやインタビュー、特に本研究採択後のインテンシヴな調査を通して、当事者が語る自己、あるいは語りえない自己との遭遇により、他者との関係性、その相互作用過程など当事者が意味付ける社会的なものの実態に迫るには、豊富で多様な当事者視点の経験の理解に基づく必要性を実感した。 当事者の日常のままならなさを医学的障害として分類し対処する医療化の過程で、当事者は新たに勃興した自己に脅かされ身の振り方の決定に直面する経験を表現しえないでいた。一方、申請者が調査した診断直後に当事者同士が出会う対話空間では、当事者や家族の絶望や孤立、孤独な自己探求を回避しうる機能を担っていた。最終年度では、その当事者同士が出会い語り合う社会基盤により一人称の語りが二人称を取り入れ、三人称の経験として言葉を獲得・形成していくプロセスにおいて、次第に当事者の希望や生命力が復興する語りが開かれていく様相を観察・記録することが可能となった。 コロナ禍で研究が中断したが、その後も認知症当事者との対話を続けおり、その中でお互い了解・納得した認知症とは「ありのままの自分を認められない社会的病い」である。対話空間にいる多くの認知症当事者が、自分が自分であることや身体の変化に伴う自己変容を周囲から拒絶される経験をしてきており、あるがままでいられる社会の実現には、本研究で示唆されたスティグマとその自己内面化による困難を低減しうる当事者対話型社会基盤の構築と、当事者視点の経験に即した当事者参画型研究を推進する必要がある。
|